コラム
2024.02.21
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【M&A事例】経験者に学ぶ M&A成功の秘訣 vol.3「小さな電気工事会社の選択 地域の優良企業が結んだ縁」


高知県土佐市で電気工事会社として独立してから42年。地元で縁をつなぎ、事業を続けてきたハシダ電業は、2022年、異業種である昭和産業へ事業譲渡を行いました。いずれ廃業する道を考えていたという創業者の橋田覚氏は、なぜM&Aを決意したのかお話を伺いました。

一代限りで廃業の予定だった

「親族に後継者がいなければ、第三者承継という道もある」。
ハシダ電業の橋田覚社長が、取引先金融機関からM&Aについての話を聞いたのは、2021年のことだ。
「その時私は70歳。まだまだ現役でできると思っていましたから、75歳くらいまでやって、その後、引退・廃業すればよいと思っていたんです」。
橋田氏には子どもが3人いるが、3人とも承継の意思はなく、後継者はいなかった。
M&Aについては、知ってはいたものの、自社のような規模の小さな会社に当てはまるとは思いもよらず、詳細を知ろうと考えたことすらなかった。ところが、金融機関の担当者は、同社であればM&Aによって事業を第三者に承継することが可能だという。
ハシダ電業の売り上げは1億円ほど。コロナ禍の影響も受けず、黒字で推移し、堅実な経営をしてきた優良企業だ。従業員数は6人と少ないながら、まだ30代の従業員もいた。
「彼らのことを考えれば、他社が従業員や取引先ごと引継いでくれるなら、それに越したことはないと思いました。ただ、あと5年は自分でやっていこうと思っていましたから、そんなに急ぐ必要もないと考えていたのです」。
だが、「相手先を探すのに、2年から3年かかる場合もある。相手先探しに時間がかかった時に、75歳になってから考えるのでは、焦って譲渡条件を吟味できなくなる可能性もある。今から時間をかけて探したほうがいいのではないか」とのアドバイスを受け、M&Aの仲介会社の担当者と話をしてみることにしたのだ。
最初は強くM&Aを望んでいたわけではなかったが、話が進むにつれ、廃業せずに会社を続けていくことができると知り、どんどんその気になっていった。「ですから、本気でM&Aについて考え始めたのは、実は売却先について具体的な話をもらってからだったんです」。

地域の優良企業に売却

「同業者で手を挙げてくれていた企業もありましたが、途中で条件が合わなくなり、別の企業を探すことになりました」。
M&Aの候補探しは、一旦白紙に戻ったものの、すぐに次の譲渡先候補が見つかった。それが、今回M&Aを行った昭和産業だった。
昭和産業は、畑で使う園芸ハウスや、そこで必要なヒーターなどの販売から設置までを行う地域の優良企業だ。ハシダ電業の本社から、車で30分ほどの所にあり、異業種ではあるが、園芸ハウスで電気工事が必要な場合は、取引先として仕事を請け負う間柄だった。そのため、社名だけで、どんな社長で、何をやっているか、橋田氏にはすぐにわかった。
「この会社なら売却してもいいのではないか」と橋田氏は思ったという。
従業員の雇用と、仕入先など取引先の継続という条件のほかに、橋田氏が75歳まで社長を継続したいという意向も伝えた。
その結果、引継ぎ期間として3年が設けられることになった。
経営者の引継ぎ期間は、半年から1年ほどということが多く、3年は比較的長い。だが、昭和産業にとっては全くの異業種。会社の新たな柱とすべくM&Aをしたいという意向があったものの、社内に業界に精通する人材がおらず、担当者が仕事を覚える期間として、長い引継ぎ期間が必要だった。「75歳まで社長としてやっていきたい」という橋田氏の意向と、長い引継ぎ期間が欲しいという昭和産業の希望がうまくマッチしたことが、M&A成立の重要なポイントとなったのだ。

会社が継続するという安心感

M&Aは、従業員にいかに話をするかも成功のための重要なポイントとなる。従業員が不安になり退職してしまえば、その後の事業継続に支障が生じることもあるからだ。ハシダ電業でも、M&Aが決まり、従業員に話をした際には、不安を感じた人もいたという。だが、「3年間は変わらず橋田氏が社長としてやっていくこと」、「仕事内容も取引先も変わらないこと」を伝え、安心材料とした。
「実際、M&A後も私が社長を継続し、仕事内容もほとんど変わらなかったことで、今では安心して働いてくれています」。
M&Aによってグループ化したことで、ハシダ電業は廃業ではなく事業承継の道へと進んだ。今、橋田氏は若手採用に期待を寄せている。
「昭和産業では、新卒採用を行っています。その中に、グループ採用ということで、電気工事をやってみたい人を一緒に募集することになりました」。
現在、電気工事業界は、若手の人材不足が深刻だ。昨今、地元の若者は、東京や大阪などの都市部に行って働きたいという意向を持つ人が多く、地元に留まる人は少ない傾向にある。これまで若手の採用に苦戦していたハシダ電業だったが、同社よりも地元で名の知れている昭和産業で一括採用ができれば、新卒で電気工事などに興味がある人材を採用しやすくなる。若手が増えれば、従業員の年齢バランスも整い、より盤石な社内体制をつくることが可能だ。
また、橋田氏は、昭和産業に同社で仕入れることができる電気機器関連の部品などの取引先ルートの変更を進言した。
「M&Aをするからには、当社がグループとなる利点を最大限活用してもらいたいと思いました」。
ハシダ電業にはそれまでの取引先とのコネクションがあり、安く仕入れることができるネットワークがあった。そこから仕入れることで、これまでと比べ、電子機器部品を安価で購入することが可能だ。
現在、橋田氏は、会社の先行きを心配することなく、社長としての仕事をしている。
「会社が今後も続いていくという将来の見通しが立ち、ほっとしています。あの時、廃業ではなく、M&Aでの承継を決断して、本当に良かったと思っています。もし、M&Aでの事業承継に迷っているのであれば、まずは動いてみるといいのではないかと思います」。

★本事例のポイント★
・当初は自社のような小規模企業ではM&Aの対象にはならないと思い込んでおり、M&Aは選択肢にはなく詳細を知ろうとすら考えなかった。
・廃業で良いと思っていたが、未だ若い従業員のことを考慮すると、M&Aという選択肢は良い方法だと考えが変わった。
・相手先はすぐに見つかるわけではない。引退しようと思う歳になってから検討しても遅いため、早めに動いておくことが重要。
・異業種であってもお互いの要望がマッチしていれば成立する可能性がる。(納得するまで擦り合わせをすることが重要)

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