コラム
2023.04.06
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【M&A事例】経験者に学ぶ M&A成功の秘訣 vol.1「承継と成長の両立を実現した譲渡」


経営者が高齢となっても後継者がいない、経営が悪化してしまったなどの理由で、M&Aを検討しはじめるオーナー社長は多くいらっしゃいます。しかし北晃測機は、コロナ禍においても3期連続黒字を達成。木村秀水社長は、後継者がいなかったこともあり、2021年にM&Aによって会社を譲渡しました。しかし当時は59歳。社長として精力的に会社を牽引できる年齢です。なぜ、あえてこのタイミングで譲渡を決意したのでしょうか。その理由をお話いただきました。

驚異の営業力、道内全ての道路工事関係会社と取引口座を持つ会社

「M&Aに関しては、セミナーなどに参加したことがあり、漠然とイメージはありました。でも、自分が会社を譲渡することは考えていませんでした」。
北海道全域を販売エリアとし、道路を整備する際に使う計測機などをメインに取り扱う商社、北晃測機の木村社長は、重機リースを手がける大手・西尾レントオールと資本業務提携を行うことになった経緯をこう振り返りました。

北晃測機は、木村氏の父親が1973年に北海道で設立した会社。
「前身は56年に父が仲間と設立した北開測機という会社です。道路舗装の際に使う測量器機や品質管理を担う試験機械などを取り扱っていました。北海道の開発に伴う急拡大により、分社化したのが、北晃測機です」。“計る・測る・量る”に関する機器を扱う商社として大きくなった同社に、木村氏が後継者として入社したのは1988年。バブル全盛期、公共事業による道路の新設が多数行われ、それに付随して商品が自動的に売れていく時代でした。

ところがすぐにバブルは崩壊。取引先の大手企業が倒産し、同社は債務超過のピンチに陥ってしまったといいます。
「急な景気後退となり、父は舵取りに苦心しました。これまでのやり方を変える必要があるということで、私が経営を引き継ぐことになったのです」。こうして1996年、木村氏が社長に就任。道路、舗装、土木など、オールマイティに取り揃えていた計測機械の中で、得意とする道路分野の商材を活かし切れていないと感じ、その分野の営業を強化。同社しか扱っていない商材などを強みとし、従来の待ちの姿勢を転換しました。また積極的に営業を行うことで取引先を3〜4倍にまで増やしていきました。
「現在、北海道内の道路設備工事に関する会社とは、ほぼすべてと取り引きしています」。ピンチを乗り越えた同社は、その後現在に至るまで連続黒字を計上。堅実な経営を行えるようになっていました。


経営基盤強化のための戦略的M&A

M&A締結時、木村氏は59歳。社長ご自身もまだまだ采配をふるえる年齢だと自負していたそうです。しかし同時に、近年は時代の変化が激しく、取り扱い製品の高性能・高価格化が進んでいて、長期的な戦略を考えると経営基盤を強化しなければならないと考えていたと語ります。
「測量機械だけではやっていけない時代になる。他業種と同様、計測機にもICT*化の波がきている。自社だけでやっていくことに限界が来るのではとの不安がありました」。木村氏には東京のメーカーに勤めている息子さんがいらっしゃいますが、そのご子息が「会社を継がない」と表明したことも、M&Aによる譲渡を進める後押しとなったようです。
「計測機市場はシュリンクしつつあります。そんな現状の中、東京で勤務している息子に『戻って来て継いでほしい』とは言いにくい。息子にも会社を継ぐ気はないとわかっていました」。しかしそうなれば、従業員に後を継いでもらうか、何年か後に廃業とするのか、親族内承継以外の道を検討する必要があると考えるようになったといいます。

「当時は業績も安定し、黒字化が実現できていました。3期連続黒字となれば、M&Aの条件の良い話もあるかもしれない。当社に興味を持つ会社があるかどうか、まずは“おためし”で聞いてみようという軽い気持ちでした」。だからこそ、「譲渡先がすぐに見つかることはないだろう」と考えていましたが、相談後すぐに「北晃測機をM&Aしたい」と手を挙げた会社が現れます。それが、現在同社と資本業務提携を行っている西尾レントオールでした。西尾レントオールは、ショベルカーやダンプカーなどの建機レンタルを主に扱っており、海外にも拠点を持つ大企業。「そんな大手が当社に興味を持ってくれたことに驚きました」。

*ICT:Information and Communication Technology・情報通信技術


最初は本気ではなかったM&Aだけど…。良縁に恵まれ決断

「本音を言えば、最初は本気ではありませんでした。ただ、興味を持ってくれた西尾レントオールには良いイメージがありました。それで、『話を聞く程度なら』と思ったのです」。
ところが、対話を重ねていくと、とんとん拍子に話は進んでいきます。
「あまりにもスムーズに進むことに、戸惑いを覚えることもあったくらいでした」。
M&Aを進めるにあたり、木村氏は雇用の継続、社名の維持などの条件をつけました。そのうえで「5年間は社長として会社に残りたい」という要望を出しました。一般的に中小企業のM&Aでは、譲渡側の経営者は会社を譲渡した時点で基本的に引退します。顧問として残ることはありますが木村氏のように代表社長として残るケースはあまりありません。そして結果として、木村氏が事前に出した条件は、ほぼそのまま受け入れられました。これもまた珍しいケース。逆に言えば、買収側にとって、それだけ北晃測機に魅力があったということ。理由として、北海道での道路建設関連の顧客基盤が強固であること、業績が安定していたことなどが挙げられるでしょう。


ついにM&A成立!M&A後の売り上げは120%増

2021年7月、契約を締結。関連会社としてリソースを活用できるようになった北晃測機は、M&A前と比べ、売り上げが120%、営業利益は170%アップしました。「それまで当社が不得手としていた分野の商材も、会社のつながりで安価で入手できるようになりました。売値も安くでき、拡販しやすくなったんです」。
時期尚早ではないかと迷っていた木村氏でしたが、振り返ってみれば、早いタイミングでのM&Aは、良い方向に働きました。「今思えばベストタイミングでした。早く着手したように見えますが、その分、可能性が広がりました。早めに計画的に考えておくのが良いと思います」。


M&A=成長戦略

西尾レントオールとの提携により、リソースを有効活用することで、成長を遂げている同社。今後はICT等最新技術の更なるキャッチアップや、従業員の若返りにも積極的に取り組んでいくといいます。時代の変化を敏感に感じ取った木村氏の不安と、「後継者不在」という問題から始まったM&Aは、同時に成長戦略となりました。それができたのは、自社の強みを磨き続けてきたこと、そして木村氏が50代という比較的早い段階から、承継問題に向き合ってきたことが挙げられます。譲渡側にとっても、より成長するための可能性が広がるM&A事例と言えるでしょう。

★本事例のポイント★
・高齢や病気、経営悪化などの土壇場で決めたM&Aではなく、早い段階で情報収集していたこと。
・後継者不在ということを念頭に、「M&Aで譲渡するかもしれない」と心の準備をしていたこと。
・現状の課題をきちんと理解・把握をしており、成長の糧になるものは何かを見極めていたこと。
・M&Aを一つの成長戦略の武器として活用したこと。

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