支援事例

Cases

親族内外承継支援

車体塗装の〝一職人〟から〝経営者”へ

徹底的に研鑽し学んで切り拓いた
新たな志と事業展開

次世代経営塾[2013年第1期(大和信用金庫:奈良県)]修了生
グローバルトレーディング株式会社 代表取締役 菊田 修 氏
聞き手 インクグロウ株式会社 代表取締役社長 鈴木 智博
右が鈴木智博、左が菊田修氏
右が鈴木智博、左が菊田修氏

学び続ける姿勢こそが次世代経営者の条件。学びには、座学での学びと実践経験による学びがあり、両方が揃って成長の糧となる。自動車カスタムの業界で一目置かれるカリスマ職人である菊田修氏は、次世代経営塾を経て、新たな志とブランドを立ち上げた。自社の業績を伸ばし続ける菊田氏に、自身の次世代経営者としての成長の軌跡をたずねた。

職人として上りつめたからこそ見えてきた新たな道

鈴木:幼い頃から先代であるお父様の仕事に憧れていたそうですね。

菊田氏:はい。小学校3年生の時に、父が自動車の板金塗装工場(現・ボディショップ菊田)を開業しました。そのときから、自分も絶対にこの仕事をするんだと心に決めていました。高校を出てすぐに、同業の会社で6年間修業をし、24歳の時に父の会社に戻ってきました。やるからには絶対に日本一のペインターになるという目標を持って徹底的に打ち込みました。1週間ほとんど寝ずに仕事をしたこともありましたね。もう楽しくてしょうがなかった。2003年には事業を承継して、そのうちに、オートショーで表彰されたり、数々の自動車雑誌に取り上げられたりと、高く評価されるようになりました。すると、雑誌を見て、車をペイントしてほしいと遠方から来たお客さんの車で工場が溢れかえるようになってしまって。

鈴木:それはおいくつくらいの時ですか?

菊田氏:30歳を過ぎた頃です。しかし利益は上がっていなかった。職人一人が1日でできる作業には限りがある上に、利益を度外視して最高の仕上がりを求め、一切の妥協をしなかったので当然です。この状況を打開し事業を続けるために、ヘッドライトやテールランプなどの自動車部品の生産・販売をしようと考えました。当時、特殊塗装やボディ加工は自分の思うように完璧に仕上げられるようになっていましたが、ランプなどの樹脂部品は金型成形が必要で、職人には手が出せなかったんです。ならば、作ってやろうと。それをネット販売すれば、職人仕事の質を落とすことなく、別で利益を生み出せる!と思いついたわけです。

鈴木:職人として一生懸命に努力し尽くしてきたからこそ、その限界と新たな道が見えてきたわけですね。とはいえ、自動車部品は未知の領域ですよね。

菊田氏:当時ランプなどの部品はアメリカから取り寄せていたのですが、台湾製が多いことに気づき、台湾の自動車部品のビジネスショーに飛び込みました。しかし、そこは各国の商社マンが来るところで、私みたいな職人は一人もおらず……片言の中国語と英語で商品を見せてほしいと言ってもやはり門前払い。でも、どうしても手に入れたい部品があり、2時間ほどそこで居座り、取引の糸口を掴みました。日本車向けの商品ではなかったのですが、経験を積んだ職人として、これは日本の車種に合うと確信したんです。そしてなんとかその商品を仕入れ、ネットで販売を始めました。
当初は、日中の仕事の休憩時間や夜中に私が梱包発送や販売管理をしていました。それが軌道に乗り始めた頃、大和信用金庫榛原支店の当時の担当者からのアドバイスもあり、07年に新会社として、グローバルトレーディングを立ち上げました。

鈴木:承継されたボディショップ菊田は板金塗装業で、自動車部品の生産販売業という別業種の会社を立ち上げられた。菊田社長は二代目でありながら起業家でもあるということですね。

経営者との交流によって生まれた志とブランド

菊田氏:ネット販売の売り上げが3億ぐらいになった頃でしょうか。それまでは自分の感覚で前だけを見て進んできましたが、経営者として考えると、はたしてこのままのやり方でいいのか?という疑問が出てきたんです。一匹狼でやってきたので、相談相手もいない。先行きに不安を感じはじめたときに、中小企業同友会の方が熱心に誘ってくれ、会合に参加しました。ほかの経営者と交流することで、さまざまな人の考え方も知れましたし、相談もできるようになりました。
同じ頃に、大和信用金庫さんが経営サポートをしてくれまして。1年間かけて、売上計画やブランド計画などについてミーティングを重ね、一緒に経営計画書を作成しました。

鈴木:その後ですか、大和信用金庫さんの次世代経営塾を受講されたのは。

菊田氏:はい、第1期生でした。数字を理解することの重要性や理念の必要性など、大きなヒントを得ました。経営について勉強するきっかけになったとも言えます。

鈴木:経営者として成長するためのスイッチが入ったタイミングだったのでしょうね。

菊田氏:そうですね。やみくもに走り続ければ、車も人もいつかは壊れます。その前に、一旦立ち止まって自分を振り返ることが必要なのかもしれません。
私自身は、次世代経営塾などでほかの経営者と交流し、新たな思いが芽生えました。それまでは、お客さんの夢と自分の夢を叶えたいと思い頑張ってきましたが、すべての人に喜んでもらえるような商品を作りたいと思うようになりました。

鈴木:より多くの人を幸せにするという志を立てられたわけですね。

「トラックパーツナイトスター」の商品例。日本のトラックメーカー各社のトラックに装備できる、走行中の安全機能(デイライト)を内蔵した高輝度ヘッドライトや、LEDテールランプなど、働く人の安心安全を理念とした商品を生産・販売している

菊田氏:それで、働く人の安心安全のために、を理念とした「トラックパーツナイトスター」というブランドを2018年頃に立ち上げました。もともと販売していた乗用車用のLEDランプの技術を用いて、おもに商用トラックやバス向けの、純正品よりもはるかに明るいLEDヘッドライトを開発しました。夜道を走るトラックドライバーの安全にとって、ヘッドライトの明るさは重要です。今まで販売してきた商品のほとんどはBtoCでしたが、この商品は、BtoBで展開しており、グローバルトレーディングの新たな柱として売り上げを伸ばしています。

鈴木:それにしても、本当にいいタイミングで周囲の人のサポートや必要な情報を得ていらっしゃいますね。

菊田氏:今思えば、ですけれども。絶対に日本一のペインターになるぞ、絶対に車のライトを作るんだ、と強く思い続けてきたからこそ、チャンスを逃さなかったという気がします。有意注意と言いますか、常にアンテナを張り続けることも大切です。

経営者としての使命と夢を抱いて学び続ける

鈴木:事業を承継する前と現在とでは、業績はどのくらい変化していますか?

菊田氏:全体の利益は約30倍になっています。業績が伸び続けているのはグローバルトレーディングですが、ボディショップ菊田も堅調です。ネット販売で自動車部品を買ってくれたお客さんが、その部品を取り付けてほしいと来店してくれることが多いのですが、そのときにカスタムした車を見て、ボデイショップ菊田のお客さんになってくれる人も少なくありません。

鈴木:2社間で好循環が生まれていると。

菊田氏:ええ。今後は、関東に拠点をつくることも視野に入れています。ただそうなると、誰に任せるのか、採用はどうするのかといった悩みが出て来る。いまは、経営理念や事業方針をはじめ、就業規則などをすべて見直して、企業としての体制を整えなければならないという段階に来ています。

鈴木:業績も上がっているわけですし、今のままでいいという考え方もあるのでは?

菊田氏:確かにそうですね。でも、組織を大きくすることで、スタッフ(社員)が安心して働き続けられる環境を用意すること、そして、雇用を増やして地域を活性化することは、経営者の使命だと思っているんです。

鈴木:なるほど。地域経済の活性化には、地域企業の成長が不可欠です。
つまり、菊田社長のように、会社を成長に導くことのできる経営者を増やしていかなければいけないと私は思います。

菊田氏:そういう意味では、次世代経営塾のような学びの場が必要です。経営者がそのような学びの場に参加したり、勉強をしたりしようと思うと、ある程度スタッフに現場を任せる必要性が出てきます。私の場合は、それまでずっと現場で職人をやってきたので、スタッフには「自分はみんなと会社のために勉強してくるから、現場を頼んだよ」という思いを伝えました。信頼して任せることで、彼らが成長する機会となり、私も勉強に集中できました。そのような環境をつくることも大切だと思います。
また、若い人がビジネスについて学ぶ機会があるといいなと思います。少しでも予習できていれば、実際に壁にぶち当たったときにも対処しやすくなる。

鈴木:おっしゃる通りで、経営は実際にやってみて初めてわかることが多いとはいえ、学んでいれば、「こういうことか」とより実感できる。そうやって経験の中で、学んだことを自身の糧にしていくことが大切ですね。

菊田氏:あとはやっぱり、強く思い続けられる夢があるといい。私には若い頃からずっと憧れている車に乗りたいという強い夢があって、いつの間にか、その夢が叶いました。はじめてその車を運転した時には、なぜか涙が止まらなかった。不眠不休で一生懸命腕を磨いて、悔しい思いをしたことも、不安でたまらない時期もあった、そういったこれまでの思いや出来事がバーッと脳裏を駆け巡ったんですね。そうか、このために自分は必死で頑張れたんだなと。そういう思いができるというのは、本当に幸せです。
だから、若い人たちには、立派な志じゃなくていい、自分なりの夢を持って一生懸命に頑張ってほしい。私も、すべての人に喜んでもらうという次の大きな夢に向かって研鑽を続けていきたいと思っています。

グローバルトレーディング株式会社 代表取締役 菊田 修氏
1973年、奈良県生まれ。小学校3年生のときに父親が自動車の板金塗装業(現・ボディショップ菊田)を立ち上げる。「自分も絶対にこの仕事をやるんだ」と父親の仕事に憧れを抱き、高校卒業後、同業他社で約6年間修業し、家業に戻る。日本一のペインターになるという目標を掲げ、仕事に打ち込み、業界では一目置かれるカリスマ職人となる。03年、事業を承継。07年、自動車部品を生産・販売するグローバルトレーディング株式会社を設立。多数のオートパーツブランドを持つ。「トラックパーツナイトスター」という新たなブランドを立ち上げ、業績を向上させている。奈良県宇陀市の中小企業振興のために尽力するなど、地域活性化にも貢献している。

次世代経営者成長のカギ

  • 職人は自身の作品を突き詰めることを業とし、経営者とは、理念とビジョンをもって計画を立てて、企業を成長させ収益を上げる人
  • その違いを自覚し、それぞれのステージで学び続け、誰よりも本気で取り組む

Company Profile

  • 会社名:グローバルトレーディング株式会社
  • 所在地:奈良県宇陀市榛原澤978-2
  • 設立:2007年
  • 資本金:300万円
  • 従業員数:12名(うちパート6名)

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2025年6月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。