支援事例

Cases

親族内外承継支援

後継者時代に採用を担い組織をつくる

業界未経験の三代目が変革する
地域密着型薬局

次世代経営塾[2013年第3期たちばな未来塾(たちばな信用金庫: 長崎県)]修了生
有限会社もろおか薬品 代表取締役 諸岡 健吾 氏
聞き手 インクグロウ株式会社 代表取締役社長 鈴木 智博
右が鈴木智博、左が諸岡健吾氏
右が鈴木智博、左が諸岡健吾氏

学び続ける姿勢こそが次世代経営者の条件。学びには、座学での学びと実践経験による学びがあり、両方が揃って成長の糧となる。採用を担うことで家業の課題を解決し、次世代経営塾などでの地域企業との交流を通して事業を成長させてきた諸岡健吾氏に、次世代経営者としての成長の軌跡をたずねた。

入社半年後に採用を担当 労務環境の改善に着手する

鈴木:まずは御社の沿革をお教えください。

諸岡氏:1950年に祖父が薬局を創業し、その後父が引き継ぎ、医薬分業の流れのなかで調剤薬局を出店して98年に法人化しました。私自身は、大学卒業後は東京のIT系企業にウェブデザイナーとして勤めていました。

鈴木:家業を継ぐおつもりはあったのでしょうか。

諸岡氏:継ぐ気は一切ありませんでしたし、父からは、大手に売却する予定だと聞いていました。ところがお付き合いのあるクリニックから反対されるなどしてM&Aの話がなくなってはじめて「お前に継いでもらわないとならなくなった」と言われたことを覚えています。

鈴木:すんなりと受け入れられたのですか?

諸岡氏:そうですね。ちょうど自分のキャリアについて考えていた時期で、若いうちに組織のトップに立つというのはいい経験になると思ったんです。ですからその時は、家業をずっとやっていくんだというふうに重々しく捉えたわけではありません。2012年の年末、29歳のときに家業に戻りました。

鈴木:役員として入社されたのですか?

諸岡氏:いいえ、一スタッフとして現場に入りました。当時はとにかく薬剤師が不足しており、入社して半年経った頃に「採用を何とかしてくれ」ということで、近郊の大学の就職窓口をまわりはじめました。とはいえ、薬剤師の採用は医師の次に難しいと言われ、新卒となるとさらに難しい。薬局業界に入ったばかりの私にとっては雲をつかむような話で、最初はうまくいきませんでした。

鈴木:新卒採用ということは、待遇面や条件面など、大手資本と競合しながら薬剤師になる人を確保していくということですから、やはり、自社に入ってもらうためには何かしらの武器や見せ方の工夫が必要になりますよね。

諸岡氏:おっしゃる通りです。そこで、労務環境の見直しからスタートしました。当時は、冠婚葬祭でもない限り有休は取れず、残業代も不明瞭というような旧態依然とした環境でした。まずは、就業規則を見直し、労務管理を整備していきました。時間単位で有休を取得できるようにするなど、ワークライフバランスの実現を目指して社内環境を変えていったのです。

現在、同社は長崎県諫早市内に6店舗の薬局を運営している

鈴木:採用に取り組むということは、自社の働きやすさや魅力について考えるということでもありますね。そういう意味では、他社でのご経験はアドバンテージになったのではないでしょうか。

諸岡氏:ウェブデザイナーの経験はすぐに役立ちました。入社後すぐにホームページを作成したのですが、当時は、このあたりの地域でホームページがある企業は少なかったので、採用面でもアピールになったと思います。若手の女性薬剤師をトップ画面に出して、女性が活躍できるイメージに仕上げました。年配の社員が多かったので、若手が活躍できるような雰囲気づくりにも配慮しました。そうした工夫が奏功してか、新卒者の採用ができるようになっていきました。

自身が採用した人材が成長し、理想的な組織が生まれる

鈴木:後継者の時代に採用から社員マネジメントを一手に引き受けられたわけですが、事業承継はいつのタイミングだったのですか?

諸岡氏:16年に代表取締役になりました。

鈴木:実は、後継者に採用を任せた数年後にバトンタッチをするというのは、事業承継の教科書的には最高の流れだと言えます。なぜなら人手不足の環境下で、後継者が採用を担うことは、未来の組織づくりに着手することと同じ意味を持つからです。社長になったときには、自身が採用した人材が成長し、つくりたい組織が出来ている状態になっている。対して、社長になったときに周囲にいるのが、先代が採用した古参社員ばかりだと、信頼関係を築くところから取り組まなければなりませんから、数年間はロスしてしまうわけです。

諸岡氏:それは私もすごく感じています。承継したときには、自分を信頼してついてきてくれるスタッフがいたので非常に心強かったですね。古参のスタッフからは業界未経験の社長の息子という目で見られましたが、私が採用した若いスタッフとはそういったバイアスがない状態で信頼関係を築くことができたのも大きいです。新卒から入社して働き続けてくれている人も多く、新しいことをはじめるにしても、比較的スムーズに進められています。

鈴木:先代もすごいですね。M&Aの話がなくなって、いざ事業承継となったときには悩まれたのではないかと思います。トップの座をなかなか譲れないまま旧来型の経営を続けてしまい、後継者ともぶつかって事業も親子関係も悪化してしまうケースはよくありますから。

諸岡氏:父がどこまで意図的だったのかはわかりませんが、口出しをせずに任せてくれたことは確かです。労務環境を整える際にも、父の世代の価値観だと、会社に尽くすのが社員の務めといった考えがあったはずですが、働きやすさやワークライフバランスの重要性について話すと、「いまはそうなのか」とすぐに引き下がってくれました。時代も薬局業界も大きく変わるなか、新しいやり方を模索しなければならない、そしてそのためには若い人の考えを尊重しなければならないと思ってくれていたのかもしれません。

他業種の経営者や地域の人々との交流が成長を促す

鈴木:承継後、新たに取り組まれたことはありますか?

諸岡氏:実は、19年頃に戦略のひとつとしてM&Aを検討していました。今後、在宅医療や介護の分野にも参入していかざるを得なくなるなかで、大手の傘下に入ったほうがスタッフによりよい環境や教育の機会を提供できるのではないかと考えたんです。
結論から言うとM&Aはとりやめたのですが、このタイミングが私の経営者としてのリスタートになったような気がします。それまでは、ただ目の前の課題を解決することだけを考えていましたが、将来を見据えて会社をどうしていくべきか、自力で生き残っていくためには何をしなければいけないのかを考えるようになりました。

鈴木:採用活動を経て社内を変革し、自身の自社への思いやビジョンが見えてきたタイミングでもあったのでしょうね。

諸岡氏:売り上げもこの辺りから伸びはじめ、ここ数年は過去最高を更新しています。

鈴木:今後の具体的な方針はありますか?

諸岡氏:スタッフに気持ちよく働き続けてもらうためには、やはり事業を拡大する必要があります。承継後は3店舗開局しましたが、今後も出店は考えていきたいですね。また、他社と連携しながら在宅患者さんを獲得していくと同時に、業務効率化にも力を入れています。業務フローを見直して、AIや新たなシステムの導入を進めています。進むべき方向性を共有するために、この春には、経営方針発表会も実施しました。

鈴木:経営理念も作られたのでしょうか。

諸岡氏:スタッフにいきいきと働いてもらいたい、地域の人々の健康を守りたいといった思いはあるものの、まだ明確に言語化できてはいないんです。

鈴木:スタッフの方々の成長にともない、自分たちは何のためにここにいるのか、掲げられた目標を実現したらどうなれるのか、という疑問が湧いてくるはずです。そうした疑問に答えて、目の前の仕事と未来をつなげるのは社長の仕事だと思います。

諸岡氏:そうですね。何のために利益を上げたいのか、を自分の言葉で伝える必要性を感じています。

鈴木:それにしても、諸岡社長に初めてお目にかかった、12年前のたちばな未来塾(たちばな信用金庫)の頃からすると、会社もご自身も大きな変化を遂げられましたね。

諸岡氏:この10年余りを振り返ると、社内にも社外にも仲間をつくるプロセスだったように思います。社内では採用で新たな仲間を迎え、社外で言えば、たちばな未来塾や青年会議所、商工会などで他業種の経営者や地域との接点を結び、交流してきました。そうすることで、例えば新店舗を出すときにも、必要な情報が入ってきたり、諸岡さんのためならと動いてくれる人がいたりと、地域のつながりが会社にも自分にもプラスになっています。

鈴木:社内や業界内での限られた交流だけではなく、外にも目を向けてどんどん関わっていくことで成長が促されたのでしょうね。

諸岡氏:私のような、業界や地域のことも何もわからないまま家業に入る若い後継者の方々にとっては、そのような社外での関係性を築ける場はとても重要です。より広く、より濃密な関係を築けるような場がもっとあるといいなと感じます。私自身も引き続き交流を深め、経営者として成長していきたいと思っています。

有限会社もろおか薬品 代表取締役 諸岡 健吾氏
1983年、長崎県生まれ。大学卒業後、東京のIT 系企業でウェブデザイナーとして勤務する。2012年の年末、先代である父親に請われ、家業であるもろおか薬品に入社。半年後には採用担当とマネジメントを担い、社内改革を推進する。16年、代表取締役に就任。業務効率化や店舗拡大を実施し、業績を向上させる。

次世代経営者成長のカギ

  • 業界未経験の後継者は、現業を経験して課題を抽出し、その解決に向けた活動をすることで皆がWIN-WINとなる
  • 人手不足のなか、後継者が採用責任者となることは未来の組織づくりに着手することと同義である
  • 採用は自社の魅力を再発見し、他社との差別化を考える機会であり、経営者としての成長につながる

Company Profile

  • 会社名:有限会社もろおか薬品
  • 所在地:長崎県諫早市多良見町化屋786-9
  • 設立:1998年
  • 資本金:300万円
  • 従業員数:32名(正社員29名、パート3名)
  • https://morooka-yakuhin.jp/

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2025年7月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。