自動車整備士から営業、そして経営者へ
先代との衝突を経て承継
組織づくりで成長を目指す
学び続ける姿勢こそが次世代経営者の条件。学びには、座学での学びと実践経験による学びがあり、両方が揃って成長の糧となる。幾度となく先代と衝突しながらも承継を果たし、新たな挑戦をしている外尾純一氏に、次世代経営者としての成長の軌跡をたずねた。
自動車整備士として必死に働いた13年間
鈴木:御社は先代が、自動車整備工場として1989年に創業し、その後車検や自動車販売などの事業で拡大してきました。まず、外尾社長が家業に入社した経緯から教えてください。
外尾氏:自動車整備士になるための専門学校を卒業し、父親から「とりあえずうちに来い」と言われて2001年に家業に入りました。
入社後はとにかく必死に仕事をしました。朝から夜遅くまで、休みなく働いた時期もありました。というのも、周りの社員の「どうせ社長の息子やろ」という冷ややかな目を感じて、認めてもらいたい、誰よりも整備のことがわかる人間になろうと思ったのです。
鈴木:年上の社員の方が多かったのですか?
外尾氏:父親より少し下という人ばかりで、一緒に働いている弟を除くと最年少でした。
鈴木:自分よりも一回りも二回りも年上の先輩たちに囲まれている環境では、誰よりも働くことで周りからの信頼を勝ち得るしかない、ということですね。周りから認められたな、と感じたのはいつ頃ですか?
外尾氏:入社して13年間、整備士として必死に働いた後、営業に転向しました。それまでは、お客様から注文を受けて自動車を販売するという形でしたが、これからは積極的に販売していくべきだと考えて、営業をやらせてほしいとお願いしました。自由にやらせてもらえていたので、少しは認められたのかなと思えたのはその頃でしょうか。
ただ、父親からは一度も褒められたことがなくて。それどころか、周りが心配するほど不仲でした。父親がやっていることに口を出して喧嘩をしたこともありますし、「お前には継がせない」と何度も言われました。でも仕事が好きだったので、会社にはい続けました。
外の世界での仲間との出会い 自分の役割を知る
鈴木:ひぜしん未来塾の受講は、先代に勧められたのでしょうか。
外尾氏:おそらくそうですね。父親が行ってこいと言わない限りは行く機会がないはずなので。私のことをいくらかは後継者として考えてくれていたんだろうな、といまは思います。
鈴木:未来塾を受講したあたりから経営の勉強を始められたのでしょうか。
外尾氏:はい。40歳、50歳になる前に学んでおいたほうがいいだろうと感じてはいました。ですが、経営ってなんだろう?というくらいにわからないことが多すぎて、継ぐことに対して怖いなあと不安に思ったことを覚えています。
同じ頃に初めて決算書を見たのですが、どうやって見ればいいのかまったくわかりませんでした。九州ひぜん信用金庫の担当者の方に来てもらって、いろいろと教えてもらいながら勉強しました。
鈴木:経営というのは、それまで必死にやってこられた現場の仕事とは質が違います。ゼロから始めなければならないわけで、そのような不安を抱えた状態から、事業承継に前向きになったのには何かきっかけがあったのでしょうか。
外尾氏:ひぜしん未来塾や商工会の青年部などで、同世代の同じ境遇の人たちと話すようになったからだと思います。あいつがあんなに頑張っているのに俺は何をやっているんだろう、負けたくないと思いましたし、事業承継をする意義についても考えるようになりました。
鈴木:ひたすらに目の前の仕事をするという状態から、外の世界へと目を向けられたわけですね。同世代の仲間に出会われたのは、ちょうど30代前半から半ばくらいだと思いますが、そのタイミングでの出会いは、経営者人生に大きな影響を与えます。誰かとの出会いがないと、人はなかなか変われません。後継者は、意識的に外に出て、人と出会うことが大切だと思います。
外尾氏:そうですね。私の場合は、30代半ばくらいのときに仲間と出会い、自分の役割を知って父親との向き合い方を変えました。
私はその頃、県の青年団体の筆頭副会長をしていたのですが、会長に対して、こうしましょうよとたてついていたようなところがありまして。それを、「お前はナンバーツーなんだから、会長が言うことを形にするのが仕事だろう」と周りの人たちから言われて、「あ、そうか」と、会社での立ち居振る舞いも同じだ、と気づきました。
それからは、父親に反発せず、言いたいことがあってもぐっとこらえて、父親が思い描く外尾自動車をどうつくっていくかということに真剣に取り組みました。
小さな成功体験の積み重ねが経営者としての自信につながる
鈴木:19年、38歳のときに代表取締役に就任されました。
外尾氏:その年のゴールデンウィークに父親に呼び出されて、「12月からお前が社長やけ、よろしくな」と一言言われただけで、特段引継ぎもありませんでした。後継者として認めてくれたというよりも、父親が60歳になるタイミングだったということだと思います。並走期間が約18年間と長く、父親の考えもわかっていたのですんなりと進みました。
鈴木:60歳というとまだ若いですから、そこでスパッとバトンタッチしたということは、やはり外尾社長のことを高く評価していたのではないでしょうか。親子だからこそ、面と向かって息子を褒めるのは難しいものなのだと、様々なファミリー企業のお話をうかがうなかで実感しています。
外尾氏:「お前には継がせん」「会社を辞めろ」と言われてきましたけれども、先代は、息子だからこそ敢えて厳しく接してくれたんじゃないかという気もしています。そう言われてきたからこそ、本当に継ぐ覚悟があるのか、と繰り返し自分に問うてきました。
いまは喧嘩をすることもなく、よき相談相手になってくれていて、嬉しく思っています。
鈴木:先代が元気なうちにできるだけ対話をしておいたほうがいい、と後継者の多くの方の言う通り、そのような時間がつくれるといいですよね。
経営を学び始めた頃は不安に感じられたこともあったとおっしゃっていましたが、ご自身が経営者としてやっていけると感じた経験があれば、教えてください。
外尾氏:これがあったから、というわけではないのですが、ひとつ言えるとすれば、自分が立てた目標を一つずつクリアして、いわば小さな成功体験を積み重ねてきた結果が、会社を継ぐ覚悟や自信にもつながっているのかなと思います。
実は、営業に転向したときに、自分で勝手に目標を立てたんですよ。当時の売り上げが1億2000万〜4000万円ぐらいだったので、2億円を目標にすると言って勝手に取り組んで、実際に売り上げを上げていきました。
鈴木:後継者時代の成功体験というキーワードはすごく大切ですね。早いうちに、小さくてもいいから何らかの成功体験を得ている人は、自走します。自分で自分の道をつくって歩みながら、自己効力感を得ていくことができるのです。新たなチャレンジもしやすくなる。
逆に、成功体験を積んでいない後継者はつまずいてしまう。この差は経営者になったときにも出てくるので、すごく大事な過程です。
思いに共感して同業他社を第三者承継する
鈴木:今年1月に同業他社を第三者承継されていますよね。
外尾氏:隣町の自動車整備会社をM&Aしました。創業60年以上と、うちよりも歴史のある会社で、お客さんを裏切りたくないという経営者の方の思いに共感して、受け継ぐことを決めました。我々の仕事は、地域の安心安全を守る仕事です。お客さんを守っていくという思いも、しっかりと引き継いでいきたいと考えています。
鈴木:現在は受け継いだ会社を統合していく段階だと思いますが、苦労を感じている点はありますか?
1981年、佐賀県生まれ。2001年、佐賀工業専門学校自動車整備科を卒業し、家業である外尾自動車に入社。入社後は自動車整備士として研鑽の日々を送り、14年頃に営業に転向。自ら売り上げ目標を立て、自動車販売業を成長させる。また、商工会などの団体で要職を歴任。19年、代表取締役に就任。25年、同業他社をM&Aする。
外尾氏:受け継いだ会社には年配の方が多いので、ゆっくりと変えていこうと考えています。将来的に1つの会社として運営していくために、接客やサービス、価格などを徐々に調整しているところです。トラックなどの事業用車両が得意な会社なので、そこを特化していきたいとも考えています。
外尾自動車においても、少しずつ変革している最中です。父親の時代は、一人親方のトップダウンという形でしたが、承継してから組織化に取り組んでいます。最初はなかなかうまくいきませんでしたが、この頃やっと機能するようになってきました。まず社内を、整備、営業、事務、経理と4つの部門にわけて、各部門長を置いて、私を含む5名で毎月会議をしています。
鈴木:最後に、今後の展望をお聞かせください。
外尾氏:組織化を進めつつ、社員教育にも力を入れていきたいですね。事業としては、車検や自動車販売といった得意分野をさらに強化し、タイヤの販売なども視野に入れています。地域のインフラと生活を支える会社として、お客様のカーライフ全般をサポートできるようになりたいと考えています。
次世代経営者成長のカギ
- 年長者の多い職場に入社した後継者が周りからの信頼を勝ち得るためには、誰よりも必死に働くしかない。
- 30代での仲間との出会いは、その後の経営者人生を決定づける。意識的に外に出て、人と出会うことが大切。
- 小さな成功体験を積み重ねてきている人は、周りに言われずとも、自分の道をつくって歩んでいける。
そこで自己効力感を身につけることが、経営者としての自信にもつながる。
Company Profile
- 会社名:有限会社外尾自動車
- 所在地:佐賀県武雄市山内町宮野23562-1
- 創業:1989年
- 資本金:300万円
- 従業員数:15名
- https://www.hokaojidousya.jp/
※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2025年10月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。