支援事例

Cases

親族内外承継支援

地場産業を引き継ぐ覚悟

ビジョンを明確にし
家業と地域を未来へつなげる

次世代経営塾[2014年第2期 YBC若手経営塾(大和信用金庫:奈良県)]修了生
株式会社坂利製麺所 代表取締役社長 坂口 利勝 氏
次世代経営塾[2014年第2期/2015年第3期 YBC若手経営塾(大和信用金庫:奈良県)]修了生
吉田製材株式会社 代表取締役 吉田 敦彦氏
聞き手 インクグロウ株式会社 代表取締役社長 鈴木 智博
右が坂口利勝氏、左が吉田敦彦氏
右が坂口利勝氏、左が吉田敦彦氏

学び続ける姿勢こそが次世代経営者の条件。学びには、座学での学びと実践経験による学びがあり、両方が揃って成長の糧となる。坂利製麺所の坂口利勝氏と吉田製材の吉田敦彦氏は、奈良県の地場産業の担い手として家業を成長させてきた。坂口氏と吉田氏に、セッション形式で次世代経営者としての成長の軌跡をたずねた。

そうめん製造と製材業 地場産業である家業の現状

鈴木:坂口社長は、国産小麦などの原材料にこだわったそうめんづくりを行う坂利製麺所の二代目。吉田社長は、創業104年になる吉田製材の五代目で、内装材を主力に据えることで事業を成長させてきました。まずは、それぞれの家業の状況についてお教えください。

坂口氏:当社はそうめんの製造卸がメイン事業になります。国産小麦100%のそうめんと葛入りのそうめんが主力商品で、おもな取引先は全国の生活協同組合です。メディアで取り扱ってもらうことや、ECサイトなどを通じて少しずつ認知されるようになってきたかなというところで、売り上げも少しずつ伸びている状況です。また、多くの人に東吉野に来てもらえるように、22年からそうめんのフルコースをお出しするレストランを運営しています。

吉田氏:私たちの会社は、奈良県の吉野杉や桧の製材メーカーで、先代までの時代は家の柱といった構造材が主力でした。木造家屋の需要が減り、事業が先細り状態のなか、木造以外の建築物でも使ってもらえる内装材メーカーへと事業転換してきました。近年はお客様の要望に応える形で、不燃木材の加工・販売にも力を入れています。
私の入社当時はゼロだった社員は40名になり、売り上げは約4500万円から10億円を超え、売るものも売り方も、すべてを大きく変えてきた20年間だったなという感じです。

入社から事業承継まで それぞれの承継への覚悟

鈴木:では、お二人の事業承継についてうかがっていきたいのですが、吉田社長は、新卒で家業に入られていますよね。

吉田氏:はい。実は大学2回生のときに、父親から「製材業は斜陽産業だから継ぐ必要はない。いずれ廃業するからどこかほかのところに行け」と言われました。元々、継いでほしいと言われたこともありませんでした。ですが、祖父や父親の仕事を間近に見てきて、やはりここは自分が何とかするしかないといった使命感のようなものを感じたんです。それで、卒業後に入社しました。入社して3、4年は何もわからないので、父親から言われたことをひたすらにやりました。

鈴木:その状態から徐々に裁量が増えていって、先代から任せると言われたタイミングはいつ頃だったのでしょうか。

吉田氏:26歳の頃です。大学生の頃から自社のHPを作成し運営していたのですが、取り扱っている木材の情報をHP上に掲載すると、お客様からいろんな要望が舞い込んできたのです。ですが、そのどれもが自社で扱っているものとは違いました。そこで26歳のときに、お客様からの要望に応えるために加工に力を入れたいということを父親に言いました。すると「設備が必要なら借入をするから、しっかりと面倒を見て責任をとれよ」と任せてくれました。そこから事業転換を始めて、21年に代表取締役になりました。

鈴木:坂口社長はどのようなきっかけで入社されたのですか?

東吉野は林業が盛んだが、冬の間は雪のため山に入ることができず、収入が得られなかった。そこで先代である坂口良子氏が、村の冬の仕事としてそうめんづくりを創業した

坂口氏:私は大学卒業後、一般企業で働いていました。3年ほど経ったある日、創業者である母親から「そうめん事業をやってくれへんか」と言われました。母親の病気が発覚したんです。もうこれは、と思って二つ返事で実家に戻りました。一度だけ一緒に取引先を回って以降、母親は表に出なくなり、実質的に引き継いだ形になりました。ですが、私は異業種にいたので、営業も何もかもやり方が違う。取引先の担当者は、このままでは会社が潰れるといったようなことを母親に言っていたようです。後から聞いたのですが、その時に母親は「この子が潰すんやったら、本望やねん」と言っていたそうです。そのような覚悟もそうですし、専業主婦でありながら過疎化が進む東吉野のためにと創業し、事業をやり続けてきたこと、美味しいそうめんをつくろうと試行錯誤してきたことも、改めてすごいな、かなわないなと思ってきました。それが、私自身が40歳代に入る頃にようやっと、先代に守られる存在から、自分がみんなを守っていかなければならないんだと覚悟が定まって、自分の色を出して経営できるようになっていきました。25年に代表取締役社長になりました。

鈴木:現在の先代との関係性はいかがですか?

坂口氏:会社に来ていろいろとつぶやいて帰っていくけれど、それを受け入れるかどうかは私次第、というような関係ですね。

ビジョンを明確にし業績向上へと取り組む

鈴木:近年はとくに外部環境の変化が目まぐるしいですが、業績向上への取り組みについて教えてください。

坂口氏:先代の「子どもに安心して美味しいものを食べさせたい」という思いを起点に、国産小麦を選び、油や塩などの原材料にこだわりをもって手延そうめんをつくっています。こうした愛のこもった商品を届けることが食品製造卸業の本質だと私は思っていまして、それを次世代へとつなぐためにいろんな取り組みをしています。まずひとつには、フリーズドライのにゅうめんなどの新商品の開発です。時代に求められる商品を生み出すことで、新たな伝統を生んでいく必要があるのです。
省力化や効率化などについては、やれることを随時やっています。例えば、以前は出荷まで手掛けていましたが、生産に特化するべく、物流に関しては外注することにしました。また、麺の練り具合や水加減など、人の手でしかできない作業に集中できるようにと、肉体的に負荷の大きい作業を機械化しました。

鈴木:生産効率とともに麺の質も上げているということですね。機械化は補助金を活用されたのでしょうか。

フリーズタイプやカップのにゅうめんなど、さまざまな商品を開発している。写真は「ベジタリアンの塩にゅうめん」。麺類だけではなく、吉野の葛餅やくずゆなどの甘味も人気だ

坂口氏:はい。自分で書いて申請をしたところ、一度落とされてしまいました。それからは、大和信用金庫の担当の方がサポートをしてくれて、補助金を活用しています。

鈴木:なるほど。吉田社長の場合は、ビジネスモデルを転換することで業績を上げられてきたわけですが、具体的にはどのようなことから取り組まれたのでしょうか。

吉田氏:まず、若手経営者塾で学んだことをきっかけに、理念や経営計画書を作成しました。次に業務改善として私が行ったのは、職場の5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)でした。これは必要なのか? どこに何を置けばいいか? など、社員と話しながら環境改善に取り組みました。

鈴木:掃除や挨拶などは誰からも反対されないことですし、社員教育にもなります。そういったことから組織づくりに着手するというのは大切なことですね。

原木の伐採・仕入れから乾燥、製材、製品の完成まで、一貫生産している。吉野の杉と桧をおもな材料として、不燃木材やフローリングといった製品も手掛けている

吉田氏:そうですね。ところが、フローリングや壁材といった内装材を手掛けるようになって業績がぐんぐん伸びていくにしたがい、組織が空中分解寸前の状態になっていったのです。社員ゼロの状態から人を増やしていたものの、忙しくなるとともに残業時間が増え、仕事に追われるようになっていました。私も、売り上げを上げようとお客さんのほうばかりを向いてしまっていました。そんなある日社員から「私たちは会社のために働いているんですか?」と言われたんです。「働かされている」と感じさせていたわけです。このときに、いくらいいものをつくっても、注文がたくさんくるようになっても、社員みんなに「この会社で働きたい」と思ってもらえるような環境にしないとだめだということに気がつきました。それが十数年前のことです。それから、完全週休2日制度にしたり、育休や有給の取得を推奨したりと、働きやすい職場を目指すと同時に、理念を浸透させる必要性を感じました。

鈴木:組織改革のステージに入ったわけですね。

吉田氏:当初は私1人で経営計画書の作成やSWOT分析などをしていました。経営指針書の発表もしていましたが、どうもみんなに伝わらない。それでやっと社員みんなを巻き込んでいくことの重要性に気がつきました。そこから、10年後20年後、自分たちがどうなっていたいのか、社員一人ひとりの声をくみあげて落とし込むということをやっていったので、ビジョンができあがるまでに3年ほどかかりました。

鈴木:なるほど。先ほど坂口社長から機械化のお話がありましたが、吉田社長も補助金などは活用されていますか?

吉田氏:はい。積極的に活用しています。お客様に必要とされるものづくりをやっていくためには設備を更新していくことは不可欠ですし、社員の働きやすさにも直結するので、毎年のように設備投資を行っています。

坂口氏:私も感覚的には吉田社長と同じで、私たちのなりたい姿と事業計画から逆算して、必要なタイミングで設備投資を行うようにしています。単なる設備投資という見方だけではなく、機械そのものの技術革新が起き始めているので、そうした情報をキャッチすることも大切だと思っています。この機械を使うと格段に美味しくなる、といったことがわかった時点で躊躇することなく導入する。そうすることで、さらによい商品をお客様にお届けできるようになります。

鈴木:お二人とも共通しているのは、ビジョンが明確になっているということですね。もちろん悩んだり苦労をしたりということはあると思いますが、何をやるべきかがわかっている。だからこそ迷いなく設備投資に踏み切れるのだと感じます。

内装制限適合のための国土交通省の認定を取得した不燃・準不燃木材「むくふねん」の施工例。吉田製材では、吉野の桧と杉の無垢材を使用している

課題への向き合い方と具体的な取り組み

第49回やましんビジネスクラブセミナーおよび第22回若手経営塾(フォレストの会)におけるセッションの様子

鈴木:これまでの取り組みの中で、とくに大変だったと感じたのはどのようなことでしょうか。

吉田氏:私の場合はやはり社員との関わり方です。社員全員とどのようにしてコミュニケーションをとっていくのかということについては、いまも苦労しています。40名ともなると、一人ひとりと意思疎通をとるのも、ベクトルを合わせるのも難しい。そのなかで私が大切にしているのは、全社員で行う、朝礼後の掃除です。毎日20分間、社員と目線を合わせながら、「あの話どうなった?」などと話しながら掃除をしています。

鈴木:毎日のルーティンとしてコミュニケーションをとる場を設けて、一体感をつくりあげていくということですね。人数が多くなると社長の思いも伝わりにくくなりますし、そのような地道なコミュニケーションを積み上げていく必要があると。

吉田氏:ええ。ほかにも、社内報を作成して、思いや価値観のすりあわせに役立てています。また年に一度、経営方針発表会を開催して、会社のビジョンや目標を社員全員と共有しています。

鈴木:坂口社長はいかがですか?ここ数年、食品業界は物価高騰の波にさらされていると思いますが。

坂口氏:最近の価格改定については、わりと受け入れてもらえていると感じますが、大変だったなあと思いだすのは、19年にすべての取引先に価格改定のお願いに行ったときです。国産小麦の価格はそれ以前から上昇し続けていまして、さすがに限界だとなったのが19年だったのです。国産小麦の価格高騰のエビデンスをもって頭を下げに行ったものの、当時はまだデフレだったこともあり、「なんで?他の会社はどこもそんなこと言ってこない」「面倒くさい」などと散々に言われましたが、渋々のんでもらえました。あのときはきつかったですね。
その後、あらゆる原材料と物流費が上がるなかで、再度価格改定をお願いしに行ったときに、今度は「坂利さん、これだけでいいの?」と言われました。19年にきちんと説明していたからこそ、すんなりと受け入れてもらっているということだと思います。

鈴木:コロナ禍以前はまだ世の中的には価格転嫁への認識が低く、値上げをすることによって取引先を失うリスクも抱えていたわけですよね。そのなかでファーストペンギンになるというのはかなり覚悟が必要だったのではないでしょうか。

坂口氏:結果的にファーストペンギンになってしまいましたが、私はあくまで自社が生産を続けていける、そして社員を守り続けることのできる価格を包み隠さず伝えて取り引きをお願いしました。価格改定をのんでいただけない場合は、製品の原価計算まで見せるつもりでいたんです。そうした覚悟をもってお願いに行ったので、誠実に向き合ってくれている取引先であればのんでもらえるはずだと思って実行しました。

株式会社坂利製麺所 代表取締役社長 坂口利勝氏
1972年、奈良県生まれ。大学卒業後は一般企業に勤務する。2000年、先代であり創業者である母親の病をきっかけに、坂利製麺所に入社。国産小麦や油、塩などの原材料にこだわった手延そうめんを提供し続けている。25年、代表取締役社長に就任。「次世代に東吉野をつなぎたい」という思いから、そうめんのコース料理を出すレストラン『坂利製麺所 本店』や移住体験のための宿泊施設も運営している。

経営者、後継者へのメッセージ

吉田製材株式会社 代表取締役 吉田敦彦氏
1982年、奈良県生まれ。先代である父親から廃業予定だと告げられたが、2005年、大学卒業後に家業である吉田製材に入社。26歳頃から、事業転換に取り組む。21年、代表取締役に就任。同社の桧や杉は、公共建築やホテル、駅、店舗などに採用されている。オーダーメイドや現場直送といった取り組みを始め、奈良の木材を知ってもらいたいと、工場見学を積極的に受け入れている。

鈴木:最後に、経営者や後継者の方々へのメッセージをお願いします。

吉田氏:この20年間、多くの先輩たちに出会い学んできました。これから事業承継をする後継者の方々には、相談できる先輩や友人を一人でも多くつくって交流してもらいたいと思います。私自身も、地域のご縁を大切にしながら挑戦を続けたいと思います。

坂口氏:坂利製麺所は、奈良県吉野川の最上流にある東吉野村という地域にあります。坂利製麺所のことだけを考えるのであれば、もっと違う経営の仕方があるのだと思います。ですが私たちのような中小企業は、地域を支える基盤のひとつになっているのだと私は考えています。私たちの舵取りひとつで地域が変わる可能性があるのです。ですから、若手経営塾などで地域の経営者の方々との交流や勉強を通じて、地域をよくしていっていただきたいです。若手経営塾では、経営について基本的なことを学べたので、一緒に働く弟にも受講してもらいました。二人の共通言語になったという意味でもよい影響を受けました。今後も、そうめんを通じて東吉野の魅力を発信し、この地域を次世代につないでいきたい。これからも地域を支える一助でありたいと思っています。

鈴木:お二方ともに、右肩上がりの成長産業というわけではない家業である地場産業を承継し、ありたい姿に向かって成長を遂げてこられました。お二人のような経営者が地域に増えることで、地域経済が活性化していくのだと改めて感じます。本日はどうもありがとうございました。

次世代経営者成長のカギ

  • 地場産業の事業承継は、親が子に任せる『覚悟』と子が親から継ぐ『覚悟』を持ち、イノベーティブな取り組みをしないと会社の未来を変えることができない
  • 補助金の申請は若手経営者としての成長の登竜門!
    周囲の協力を得ながら自身が中心となって作成していく。経営計画に魂を込めることに意味がある
  • 地域の経営者や相談できる先輩経営者などとのつながりは自身の財産となる

Company Profile

  • 会社名:株式会社坂利製麺所
  • 所在地:奈良県吉野郡東吉野村瀧野507
  • 創業:1984年
  • 従業員数:30名
  • https://sakariseimensyo.bsj.jp

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2025年11月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。