証券会社営業マンから乗務員、そして経営者へ
30代で組織変革やM&Aを経験
未来に向けさらなる成長を目指す
学び続ける姿勢こそが次世代経営者の条件。学びには、座学での学びと実践経験による学びがあり、両方が揃って成長の糧となる。異業種での経験と経営者としての学びを糧に事業のあり方を変えてきた髙木俊英氏に、次世代経営者としての成長の軌跡をたずねた。
証券会社からトラック乗務員へコロナ禍での承継
鈴木:まずは御社の沿革を教えてください。
髙木氏:元々は祖父が仲間と共に運送会社を共同経営し、父もそこで働いていましたが、祖父と父で1967年に三星運送を買収し独立しました。これを機に父親が代表となり、自動車部品の輸送を行ってきました。
鈴木:先代などから将来は継いでほしいといった話しはありましたか?
髙木氏:そうした話しはありませんでしたが、小学生のときは継ごうと思っていました。高校生の頃には、アルバイト代わりに手伝いをしていたので、家業が身近でした。ですが、大学在学当時は、ベンチャー企業ブームで、自分もいつかは会社をつくりたいと思うようになったんです。とりあえず営業力をつけようと思い、卒業後は証券会社に入りました。
鈴木:当時の証券会社の新入社員というと、まだまだ根性営業の時代ですよね。
髙木氏:そうですね。電話は1日300件かけることもあり、100件以上飛び込み営業をする日もありました。でも辛いとはあまり思いませんでしたね。成果が上がっていたこともあって、楽しくやっていました。
鈴木:家業に戻るきっかけは何だったのでしょうか。
髙木氏:営業でいろんな会社を回っていると、二代目三代目の経営者の方に会うことが多く、会社を継ぐということの価値を感じるようになっていたんです。ちょうど同じ頃に祖父が亡くなりました。お葬式に古参社員の方が来ていて、もし父親がいなくなったら、この人たちはどうなってしまうのかなと考えたときに、やっぱり自分が継ごうと思いました。そう思い立ったので、祖父が亡くなった2カ月後には入社していました。2011年の25歳のときです。父親とは普段はあまり話をしませんが、入社の意思を伝えたときはすごく喜んでいました。
鈴木:入社後はどのような仕事をしていたのでしょうか。
髙木氏:乗務員です。大学生の頃に「免許だけは取れ」と父親に言われたので、大型免許を取得していました。乗務員を5年した後は、配車担当も兼務しました。
鈴木:入社してすぐに役職に就く後継者が多いなか、髙木社長はいち乗務員として、実務を担うという役割をどう受け止めていたのでしょうか。
髙木氏:納得していました。やはり証券会社での経験が大きくて、下積みに対する抵抗感がまったくなかったのです。何でもやろうと思っていましたし、父親との関係も悪くはなかったと思います。意見が違っても、最終的には社長の意見に従おうと決めていたのがよかったのかもしれません。代表取締役になったのは、20年、35歳のときです。
鈴木:計画的な承継だったのでしょうか。
髙木氏:たまたまだと思います。コロナ禍で取引先の⼯場の稼働が止まりはじめたときでした。先代は「これを乗り越えれば⾃信になる」と考え、私は「業績が底の時に交代すれば後は上がるしかないからラッキーだな」と思いスムーズに交代しました。実務はわかっていましたし、入社した年から毎年株を贈与されており、すでに私が過半数を持っていて、いつ承継してもいいという状況でした。私が社長になったときから、先代は事業についてはノータッチで、相談したときだけアドバイスをくれるといった関係です。
経営者としての学びを糧に組織を変革する
鈴木:経営の勉強をしようと意識したのはいつ頃ですか?
髙木氏:30歳くらいからでしょうか。当時先代に勧められて、蒲郡信用金庫さんの「若手経営者育成講座(第2期)」を受講したのがきっかけです。当時は乗務員の代務運行などもあり、満足に参加できなかったのですが、経営者として「何を磨くべきか」を学ぶことができると感じ、2年後にもう⼀度受講しました。とくに、理念やそれを浸透させることの大切さを学びました。
鈴木:経営者としてのスイッチが入ったわけですね。
髙木氏:そうですね。勉強を続けるきっかけになりました。いまは組織づくりに悩んでいるところです。権限を委譲していかなければならないとは思いつつ、つい口を出したくなってしまって……。
鈴木:わかります。でも、トップが口を出し過ぎてしまうと、言われたことしかやらない社員ばかりになってしまいます。売り上げ3億円までであればそれでもなんとか回りますが、10億となるとそうはいかず、30億となるとまったく別のマネジメントが必要です。これから先の成長を見据えた組織づくりの真っ最中というわけですね。
髙木氏:先代の一声ですべてが決まるような状態だったので、承継後は、予算内で自分たちで決めてほしい、と社員に会議を任せるようにしてきました。最近やっと、自分たちで考える癖が身についてきたかなというところです。
鈴木:事業においても新しい取り組みをされていますよね。
髙木氏:先代は創業時の恩を⼤切にし、取引先を⼤⼿物流会社1社に絞ってやってきました。それでも会社は回ってはいましたが、私は1社依存の状況から脱却したいと考え、取引先を増やしています。従来と同じように自動車部品の輸送を中心に、木質バイオマス燃料のトレーラー輸送も始めました。
鈴木:社員の方々の反応はいかがでしたか。
髙木氏:トレーラー事業に関しては、現状維持を望んでいた古参の幹部は協力的ではありませんでした。ならば、と自分で契約をとり、最初は自分で運転しました。若手の社員たちは、トレーラーに乗るチャンスをつくってくれてありがとうございますと言ってくれましたね。トレーラー事業は収益性が高いので、この仕事でこれくらい収益が上がったから賞与が支払えたという結果を示すと、古参の幹部も前向きになってくれました。
飛び込み営業で直荷主さんの開拓も始めました。当社はいままで見積もりをつくったことがなかったのですが、初めて見積もりをつくることになり、自分たちで運賃を計算してやっていこうと挑戦しています。ほかにも、「燃費向上キャンペーン」といった企画を立てて報酬に反映しています。最近は、報酬だけではなく達成感にもつながるように、企画立案を社員に任せるようにしています。
採用、教育してきた若手社員とともに挑戦を続ける
鈴木:今までで一番大変だった出来事について教えてください。
髙木氏:精神的にしんどかったのは、やはり社員が辞めたときです。社長就任前に乗務員の引き抜きがあり、結果的に10人以上が同業他社へ移ってしまったのです。その後すぐにコロナ禍になったため、固定費が下がったこと自体は業績にプラスだったと言えるのですが、仲間が辞める辛さを味わいました。ここで働きたいと思ってもらえるような会社にしたいと考えるきっかけになりました。
社長になってからは、三星運送と取引をしてよかったと顧客から思われる組織にしたいという思いでやっていたのですが、私の経営方針と合わない古参の乗務員数人は離職していきました。事故さえしなければいいだろうという考えを変えることはできませんでしたね。
鈴木:残ってくれた若手社員の方々が主力になっているわけですね。
髙木氏:はい。10年ほど前から自分で採用し教育してきたメンバーで、私についてきてくれていると感じます。彼らのためにも会社をよくしていかなきゃいけないなという使命感もあります。
鈴木:若手を採用し育成してきたというのは組織運営においてアドバンテージになります。
髙木氏:そういう意味では、若いうちに家業に戻ってきてよかったなと。彼らが主力になった頃から、理念について話をするようにしてきました。理念は昔からあったものですが、誰も意識していなかったので、私なりに解釈をしてその意味を伝えています。ほかの運送会社は大抵、乗務員1人にトラック1台をつけるのに対し、当社は乗務員の8割しかトラックがなく、みんなで乗り継いでいます。これは不満が出がちなところですが、そうすることによって生産性が上がり、休日の増加や賞与につながるから、とみんなの生活をよくするためなんだという理由をきちんと話すようにしています。
鈴木:何のために理念や社則があるのかを発信して浸透を図っているということですね。
髙木氏:はい。理念の浸透に関しては、「若手経営者育成講座」でその大切さを学んだので、実践しています。30代の早いうちから経営者としての学びを得られたことがプラスになっているなと感じます。
当社は豊橋市の「とよはし未来産業人材プロジェクト」に参画しているのですが、そのなかで実施した社員アンケートの結果では大きな不満がありませんでした。まだまだ休日は少ないですし、評価制度の整備などやるべきことはたくさんありますが、自分がやってきたことの成果が少し現れたのかなと思いました。
鈴木:25 年にはM&Aを実施して、約5億円の売り上げからグループ全体で約10億円と事業規模も拡大し、今後の成長が楽しみですね。最後にこれからのビジョンを教えてください。
髙木氏:やはり、乗務員になりたいと思ってもらえるような会社にしたい。安全運転という形で地域社会に貢献できる人を育てる会社にしたい。そのためにも自分を信じてチャレンジを続けていきたいと思います。
1985 年、愛知県生まれ。大学卒業後、証券会社に就職し営業職として勤務。2011年、祖父の他界をきっかけに三星運送株式会社に入社。乗務員として5 年、その後、配送担当を兼務する。20 年、35 歳のときに代表取締役に就任。長年、大手物流会社1 社のみとの取引だったが、自ら営業し取引先を拡大。25年にM&A を実施する。
次世代経営者成長のカギ
- 業種が異なろうとも、家業に入る前の会社での経験は仕事の考え方次第で必ず武器となり、財産となる。
- 経営者スイッチは早い段階で入れた方が良い。経営を学ぶのに早すぎるということはない。
- 知力、体力ともにすべて吸収できる30代で、経営者としてM&Aなど新たな領域にチャレンジすることは、会社だけでなく自身が経営者として成長していくための未来に向けた投資にもなり得る。
Company Profile
- 会社名:三星運送株式会社
- 所在地:愛知県豊橋市若松町字若松925 番地(若松工業団地内)
- 設立:1967 年
- 資本金:1600 万円
- 従業員数: 54 名(25 年3 月現在)
- https://mitsuboshiunsou.com/
※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2026年1月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。