支援事例

Cases

親族内外承継支援

経営者の毅然とした態度が会社を変える

規律のゆるんだ組織を改革し
付加価値経営を貫く

次世代経営塾[2014年第8期その他複数回/みらい創造経営塾(松本信用金庫:長野県)]修了生
城東冷機サービス株式会社 代表取締役 松岡 伴斉 氏
聞き手 インクグロウ株式会社 代表取締役社長 鈴木 智博
中央が松岡伴斉代表取締役、右側が松岡美樹常務取締役、左側が鈴木智博
中央が松岡伴斉代表取締役、右側が松岡美樹常務取締役、左側が鈴木智博

学び続ける姿勢こそが次世代経営者の条件。学びには、座学での学びと実践経験による学びがあり、両方が揃って成長の糧となる。社員の不正などの修羅場を乗り越え、付加価値経営で会社を強くしてきた松岡伴斉氏に、次世代経営者としての成長の軌跡をたずねた。

厳しい姿勢で規律のゆるんだ組織を改革

鈴木:松岡社長は、冷凍冷蔵設備業と空調設備業を営む城東冷機サービスの三代目でいらっしゃいますが、まず承継までの経緯についてお教えください。

松岡氏:17歳の頃に城東冷機サービスに入社しました。当時は、親族ではない創業者と叔父の他に社員が1人、私の4人の組織でした。私は創業者とぶつかって退社し、同業他社に勤めて24歳で独立しました。その後31歳のときに、代表となっていた叔父から、継ぐ人間がいないから戻ってきてほしいと言われました。
たしかに私は甥ですが、会社を出ていますし、私が最初に入社した数年後に入社し、ずっと会社を支えてきた社員が1人いたので、その彼が代表になるのが筋だろうと思いました。ですが彼は、「松岡くんが社長をやってくれるなら自分が支える」と言ってくれて。それがいまの専務です。そんな言葉をもらったこともあって、再入社しました。

鈴木:社長就任までは現場の仕事をされていたのですか?

松岡氏:2年ほど部長として実務をし、叔父の定年と同時に社長になりました。実は承継時には、叔父が残した借金が1億円ほどあったのですが、10年で返してやろう、自分たちならできると専務や常務と話したことを覚えています。

鈴木:逆境からのスタートと言えますね。経営者として最初に取り組んだのはどのようなことだったのでしょうか。

松岡氏:再入社したときには社員が16人になっていたのですが、一番びっくりしたのが、勤務態度の悪さでした。遅刻はするし、挨拶はできない、ごみは拾わずにまたぐ……。それに対して先代である叔父は何も言わない。それどころか、売り上げが悪くても借金をして賞与を支給していた。おそらく叔父は、恰好つけたかったのでしょう。
そんな状態だったので、まずは遅刻するな、ごみはまたぐなと叱るところから始め、組織のあり方を変えていきました。

鈴木:「小善は大悪に似たり 大善は非情に似たり」という言葉がありますが、社員に迎合し、いいよいいよと対応することは一見すると善い行いのように見えます。しかし結果的には社員をダメにしていく。これが小善です。そして逆に、信念をもって厳しく接すれば、最初は嫌がられるかもしれませんが、社員が成長し組織もいい方向にいく。これが大善です。組織を率いる人には必要な姿勢だと思います。

社員の不正が発覚 事業戦略の転換点に

家庭用ルームエアコンから業務用の空調機、冷凍冷蔵機器などの設計、取り付け、修理までを一貫して行っている

松岡氏:組織を変えようとしているさなかに、私が社長に就任する前から、会社に黙って個人で仕事を請け負っている社員が数名いることが発覚しました。
会社に「この前修理してもらったけど直っていない。どうなっているのか」という電話があったものの、うちはこのお客様のところでは仕事をしていないぞ、と。また、仕事の予定は入っていて部品も購入している割には売り上げが極端に下がっていた社員がいて、おかしいなと。調べてみると、元請けの会社から個人的に仕事を請けていたことがわかりました。
そういうことをやる社員ほど、会社の仕事を怠けてもいた。当然、ほかの社員たちからは不満が出てきます。これは大鉈を振るわなきゃならないと思いました。

鈴木:正さなければならないこととはいえ、一緒に働いてきた仲間ですし、社長としては辛いですね。

松岡氏:その頃は会社に行くのが本当に嫌でした。いまも残ってくれている社員たちが、「仕事が大変になっても社長についていく」と言ってくれたので大きく舵を切ることができました。その結果、社員は半分くらいになりました。

鈴木:ようやく自分色の組織がつくれるようになったということですね。ご自身としては大きなターニングポイントだったのでは?

松岡氏:そうですね。事業戦略の転換点にもなりました。
実は、社員個人に仕事を出していた元請け会社は、うちの仕事の4割ほどを占めていた大企業なんです。事が発覚してすぐに、その会社にどうなってるんだと乗り込むと、支店の担当者が勝手にやったことだとしらばっくれるばかりで誠実な対応がない。私も気が短いので、おたくの仕事は今後一切しないと言ってしまいまして。大損害につながるかもしれない切羽詰まった状況になってしまいました。
結果から言えば、当社の仕事は特殊性が高いので、その会社も結局うちに仕事を出さざるを得ず、取り引きは続いています。当時は、取引先に喧嘩を売った等々業界内でいろいろと言われましたが、私のことを信用してくれた取引先の方々に支えられました。

鈴木:大きな損失になるかもしれないという前提に立てば、どのようにして埋め合わせようかと考えざるを得なくなる。それが事業戦略の転換につながったわけですね。

松岡氏:メーカー依存からの脱却など、今後の事業の方向性や組織改革の方針について考えるきっかけになりました。

学びを通して社員の意識を変え、付加価値経営へシフトする

松岡常務:事業戦略を転換するもうひとつのきっかけが、松本信用金庫さんのみらい創造経営塾への参加でした。社長がいまお話した事件が起きたのと同じ時期に、私はみらい創造経営塾(2013年第7期)に参加していました。社長から、常務として経営者の視点を学ぶ必要があると言われていたんです。普段は数字ばかり見ているので、外の世界を知るチャンスだと背中を押してもらいました。

鈴木:それはまたすごいタイミングでしたね。

松岡常務:ええ。でも経営塾に参加してはじめて、当社は付加価値の高い仕事をしてきたのだと気づくことができたのです。
学んだことを会社に持ち帰って、「うちの強み、弱みって何だと思いますか?」と社長や専務などと話すうちに、当たり前だと思ってきたガス空調の仕事は他社ではあまりない技術であり、強みであるということに気づきました。そして、元請けであるメーカーへの依存体質や営業力がないという弱みも見えてきました。
また、グループディスカッションでいろんな会社の経営者や幹部社員の方々の考えを聞けたことが、ものすごくいい刺激になりました。

鈴木:社長が参加されたのはその後ですか?

松岡氏:はい。仕事では他社には絶対に負けないとやってきましたが、心のどこかで「このままで大丈夫なのか?」というもう一人の自分もいたんです。他の経営者の考えを聞いてみたいという思いもあって、参加しました。

松岡常務:それから社長も私も何度も参加していますが、毎回新しい気づきがあるんです。経営の基本は何度も聞いたり、自ら学んだりすることで、ようやく身につくものだとも感じています。

松岡氏:学んだことをどう経営に活かせているのか、もしくは自分のマインドがどう変わってきたのかを確認する場でもありました。その流れのなかで、売り上げを重視する経営から、収益性を重視する付加価値経営へとシフトしてきました。

鈴木:具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

松岡氏:会社のシステムすべてをガラッと変えました。私の年俸を大幅に下げて社員に還元しました。そして、利益はきちんと還元するから、みんなも収益を上げられる存在になってほしいと話しました。一人ひとりが見積もりをつくり元請け会社と対等に価格交渉をする営業であり、施工するプレイヤーであり、収益の管理者であると。そうなってもらうためにまず、全員に売り上げ伝票を書かせ、損益を出させました。個人の実績と会社の月次損益を見える化し、車のリース代から燃料代、保険代といったすべてのコストを一覧にして見せています。

鈴木:コスト意識と経営者視点をもたせるための教育を徹底したということですね。

松岡氏:そうです。また、社員にはいつも、失敗を恐れずに自由に仕事をやってこいと言っています。もし何かあれば責任は私がとる。それが私の仕事なので。

鈴木:社長に就任した頃と現在とでは、社内の空気も収益構造も、ずいぶんと変化したのではないでしょうか。

松岡氏:売り上げは、社長に就任した10年に比べて横ばいではあるものの、経常利益がかなり改善しました。当時は650万円の赤字だったのが、現在では経常利益率が継続して5%を超える収益体質へと転換しています。
当時と比べると、現在は給与も賞与も圧倒的に多いですが、勤務時間は短くなりました。

鈴木:あえて規模を大きくせずに、生産性を高めて「小さくても強い会社」を実現された。自分たちのありたい姿を守り抜くことの大切さを感じます。

松岡氏:承継してから15年ほど経って、いまは本当に仕事がしやすくて楽しいです。それも、社員がついてきてくれて、専務や常務が支えてくれて、かつ経営塾などから学びを得ることができたからです。すべての歯車がうまく噛み合ってきたところだと感じます。ちなみに、先代が残した約1億円の借金は、社長になってから8年で完済しました。

鈴木:大変な修羅場をくぐりぬけ、オンリーワンの戦略で成長してこられたわけですが、これからの展望について教えてください。

松岡氏:昨年から、病院の汚水処理機械のメンテナンスなど、新たな領域に進出しています。かなり専門性の高い仕事なので、ゆくゆくは専門部隊をつくりたいとも考えています。今後も付加価値経営に磨きをかけて、選ばれる会社になっていきたいと思います。

城東冷機サービス株式会社 代表取締役 松岡伴斉氏
1977 年長野県生まれ。高校を中退し、17 歳で城東冷機サービス株式会社に入社。冷凍冷蔵設備と空調設備に関する知識を身につけ技術を磨く。1999 年頃に同社を退社し、同業他社に就職。24 歳で独立し、空調設備業を営む。城東冷機サービスの代表をしていた叔父から承継してほしいと言われ、2008 年、同社に再入社する。10 年、代表取締役に就任。

次世代経営者成長のカギ

  • 「小善は大悪に似たり 大善は非情に似たり」規律の緩んだ組織体質から脱却すべく、嫌われ役も厭わない厳しいリーダーシップで経営改革を断行
  • 自社の強みを再認識し、従来の売上至上主義から、利益と収益性を重視する「付加価値経営」へと戦略転換
  • 社員一人ひとりにコスト意識と経営者視点をもたせる教育を徹底し、成果を正当に還元する仕組みを構築し、生産性の高い「小さくても強い会社」を実現

Company Profile

  • 会社名:城東冷機サービス株式会社
  • 所在地:長野県松本市神林5770-2
  • 設立:1975 年(創業 1969 年)
  • 資本金:1000 万円
  • https://johtoh.jp/

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2026年2月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。