支援事例

Cases

親族内外承継支援

先代と二人三脚で財務体質を改善

収益構造を転換し、
新事業で第二の創業を目指す

次世代経営塾[2016年第5期/がましんニュービジネスクラブ『若手経営者育成講座』(蒲郡信用金庫: 愛知県)]修了生
株式会社メイナン 代表取締役社長 馬場 基嘉 氏
聞き手 インクグロウ株式会社 代表取締役社長 鈴木 智博
左が馬場基嘉氏、右が鈴木智博
左が馬場基嘉氏、右が鈴木智博

学び続ける姿勢こそが次世代経営者の条件。学びには、座学での学びと実践経験による学びがあり、両方が揃って成長の糧となる。先代とともに長期負債と不良在庫の解消に取り組み、新事業でさらなる飛躍を目指す馬場基嘉氏に、次世代経営者としての成長の軌跡をたずねた。

先代と課題意識を共有し財務体質の健全化を実現する

鈴木:馬場社長はネジ及び金属部品の卸売業の三代目でいらっしゃいますが、元々家業を継ぐ意思があったのでしょうか。

馬場氏:周りから跡取りだと言われて育ったので、高校生あたりまでは継ぎたいと思っていました。ですが大学に入ってからDJ熱中し、家業への思いは薄れていました。ただ、いつかは継ぐかもしれないという思いはあったため、経営者と一緒に仕事ができる職種に就けば自分の糧になるのではないかと考え、中小企業支援を行う会社に入社しました。

鈴木:就職時には先代などから何か言われましたか?

馬場氏:当時の会長であり創業者の祖父からは、同業他社を紹介すると言われていました。でも社長だった父は、家業とは異なる業界で学んだほうがいいと「自由にやれ」と言ってくれまして。その言葉に後押しされました。仕事をするうちに、経営者の喜びややりがいなどを感じ、継ぎたいという気持ちが大きくなっていきました。結婚のタイミングで戻ってこいと言われ、2006年、27歳のときに家業に入りました。

鈴木:その頃の御社はどのような状況だったのでしょうか。

馬場氏:バブル崩壊後から蓄積してきた長期負債と不良在庫を抱え、かなり厳しい状態に陥っていました。その大きな要因は、会長である祖父が高度成長期と変わらない経営スタイルを続けてきたことにあります。業績が上がるとともに借り入れを増やし続け、ネジの仕入れを増やしていったのですが、大手の取引先が海外に製造を移転してしまったことで不良在庫となってしまったわけです。
祖父は1963年に当社を創業し、好景気のなかで事業を拡大して、93年に娘婿である私の父に事業を承継しました。祖父は65歳、父は40歳でした。社長となった父は、会長のやり方、特に資金繰りについて反対したそうですが、言えば言うほど反発され、次第に裁量権がなくなり孤立していったそうです。

鈴木:先代には賛同者がおらず、状況を変えられないまま時が経ってしまったということですね。その負の遺産に手を付けたのはいつ頃ですか?

馬場氏:私が入社した2年後くらいからです。リーマンショックで銀行が融資してくれなくなったのと同じ頃に、会長が体調を崩して現場に出られなくなったんです。そこから社長と話をして、とにかく膨らんだ負債を返済しよう、在庫を減らそうとやってきました。

鈴木:ご自身が承継する前から、先代と課題意識を共有していたと。

馬場氏:そうです。会長(祖父)は13年の創立50周年の節目で孫である私に承継させると言っていたため、私は34歳で代を継ぎましたが、その後も先代(父)と二人三脚でバランスシートの改善に取り組みました。

メイナンは金属部品のトータルコーディネーターとして、ネジ関連部品や精密部品からオーダーメイド品までを取り扱っている

鈴木:創業者に対して親子2人で協力しながら会社を立て直すプロジェクトと言えますね。なかなか珍しいパターンだと思います。借り入れ過多状態と不良在庫を解消するためには、収益性を上げていかなければなりませんよね。

馬場氏:はい。私が社長になったときは、粗利率が大体27〜28%、それ以前は25%程度でした。当時は売り上げの60%を一般ネジ製品が占めていましたが、ネジ製品を流通させるだけで粗利率を上げるのは難しい。そこで、加工品に力を入れることにしました。かつてはプレス部門があったため、プレス加工の知識や技術に明るい社員がいたんです。
また、ソリューション営業にも注力しました。例えば作業台ひとつをつくるのにも、材料や塗装、曲げ加工やパイプ加工など、さまざまな会社が関わっています。なかには特殊な技術を要する場合もあり、そうした技術をもつ会社を探すだけでも時間がかかってしまいます。そこを当社で引き受けて、お客様のものづくりに関わっていく。付加価値の高いオーダーメイド品を増やし、ソリューション営業をすることで、19年には粗利率が32%程度になりました。長期負債と不良在庫もかなり減らすことができました。

学びを得ながら、社員の意見を尊重する組織をつくる

鈴木:馬場社長が蒲郡信用金庫さんの若手経営者育成講座に参加したのは、社長に就任した後ですか?

馬場氏:はい。改めて経営について体系的に学びたいと思い参加しました。経営者として今後何をするべきか、と頭のなかを冷静に整理することができました。
また、それ以降は毎年社員とブレストをしながら中期経営計画を策定し、周知するようにしています。

鈴木:社員の方々とビジョンを共有しながら収益構造の改善に努めてこられたわけですね。

馬場氏:ですが一方で、なかなか給与を上げることができず、辞めていく社員もいました。社員全員に、まずは雪だるま式に増えてきた借金と不良在庫を何とかしないとどうにもならないと、会社の状況を正直に伝えてはいましたが、難しいですよね。いまも残ってくれている3人の社員は幹部として活躍してくれています。歯を食いしばって一緒に頑張ってきてくれた彼らには感謝しかありません。

鈴木:なぜその3人は残ってくれたのでしょうか。

馬場氏:実際のところはわかりませんが、オーダーメイド品を手掛けるなかで、ものづくりにやりがいを感じてくれたのかもしれません。会社のことを考えて積極的に意見を出してくれてもいました。

鈴木:馬場社長が若手経営者育成講座に参加された翌期に、幹部候補(現在は幹部社員)の方2名も参加されていましたよね。

馬場氏:はい。経営者の視点を学んでステップアップしてほしいと考えました。

鈴木:仕事のやりがいだけでなく、そのような学びの機会や、会社の状況を正直に伝え、試行錯誤する馬場社長の誠実な姿勢に感化されて頑張り続けてくれたのかもしれませんね。先代と基本方針をすり合わせた上で財務体質を転換してこられたわけですが、組織づくりにおいてはいかがでしたか?

馬場氏:マネジメントや営業方針に関しては考えが合わず、苦労しました。先代はトップダウンで指示を出すタイプでしたが、私は現場の意見を尊重して任せるようにしました。失敗してもいいからやってみてと。ところが先代は、失敗することがわかっているからダメだと言う。そうやって、私がいいよと言ったこともよくひっくり返されました。そのたびに、社員から「会長と社長、どっちの言うことを聞いたらいいんですか?」と言われ、先代と話し合うということを繰り返してきました。40歳くらいまではそんな感じでしたね。

鈴木:先代としては、バトンタッチはしたけれど、馬場社長が30代の間は伴走して、実績が出てきた40歳頃から完全に任せる形をとったということですね。事業承継は基本的に10 年プランと言われています。後継者は最初の3年は現場を経験し、次の3年で役職に就き、残りの3、4年で経営を実践していく。そこまで伴走して後はスパッと口を出さないようにするというパターンが多い。先代も計画的だったのかもしれませんね。

馬場氏:そうかもしれません。40代に入ってからは「自分はこう思うけれど、あとはお前が決めなさい」という感じで関わってくれています。

海外展開を含む新事業で第二の創業を目指す

鈴木:これまでで一番苦労を感じられたのはどのようなことですか?

馬場氏:先代と意見をすり合わせるのは大変と言えば大変でしたが、いまが一番苦労を感じている気がします。

鈴木:ですよね。過去の苦労というのはすでに乗り越えてきているわけで、当時はいろいろと苦労はしたはずなのですが、過去の話に過ぎません。それよりも、経営者は会社の未来に向けて、目の前で次々と起こる困難をどのようにして乗り越えるかに集中せざるを得ない。ですからいまが一番苦労を感じるものですよね。では、その未来に向けたチャレンジについてお聞かせください。

馬場氏:元々何かを創業したいという気持ちで実家に戻ったのですが、まずは財務状況を立て直さないとどうにもなりませんでした。19年あたりからようやく投資ができるようになり、22年2月からウズベキスタンで技術支援事業を開始しました。ウズベキスタンは、経済発展が著しい中央アジアのなかでも日本企業があまり進出しておらず、競合が少ない。新事業のアイデアをいろいろと考えてきたなかで、実際に現地にも行き、これならいけると確信をもちました。事業再構築補助金を活用したため、初期投資は1000万円程度で済みました。

鈴木:ウズベキスタン事業の今後の展望を教えてください。

馬場氏:いまは利益としては大きくはありませんが、30年までに営業利益で1億円を稼げるようなビジネスにしていきたいと考えています。

鈴木:なるほど。後継者として新事業の構想をしつつも、まずは財務状況の改善に注力し、それが実現した後にやりたいことをやる。後継者としての務めを果たし、経営者として成長してこられたのだと感じます。

馬場氏:創業者はどちらかというとハイリスクハイリターンの考え方で、その反動もあって先代は、極力リスクはとらない経営方針でした。それぞれのメリットデメリットを踏まえながら、経営者として自分が進むべき道を切り拓いていきたいですね。まずはウズベキスタン事業で成果を上げていきたいと思っています。

株式会社メイナン 代表取締役社長 馬場基嘉氏
1979 年、愛知県生まれ。大学卒業後、中小企業を支援する企業に入社し、コンサルティング業務に従事する。2006 年、27 歳のときに家業である株式会社メイナンに入社。当時の社長である父親とともに、バブル崩壊後より蓄積した負債と不良在庫を解消するべく、収益構造を転換する。13 年、代表取締役社長に就任。22 年より海外展開を含む新事業を開始する

次世代経営者成長のカギ

  • 先代と共有した目標があれば、多少の意見の違いがあっても会社を前進させることができる
  • 「後継者の誠実な姿勢」は周囲を味方にし、協力者へと変えていく
  • 後継者としての義務(バランスシートの改善)を果たしてから権利(新たな事業への挑戦)を行使するという順番を間違えないことが大切

Company Profile

  • 会社名:株式会社メイナン
  • 所在地:名古屋市熱田区三番町16-12
  • 設立:1968 年(創業 1963 年)
  • 資本金:3000 万円
  • 従業員数:28 名
  • http://www.meinanbolt.jp/

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2026年3月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。