支援事例

Cases

親族内外承継支援

入社2年目の人材採用から組織づくりを開始

経営者としての覚悟をもち
環境の変化に合わせて組織を導く

2013年第3期たちばな未来塾(たちばな信用金庫/長崎県)修了生
税理士法人ネクスト・プラス 代表社員 東 大智 氏
聞き手 インクグロウ株式会社 代表取締役社長 鈴木 智博
左が東大智氏、右が鈴木智博
左が東大智氏、右が鈴木智博

学び続ける姿勢こそが次世代経営者の条件。学びには、座学での学びと実践経験による学びがあり、両方が揃って成長の糧となる。前職のキャリアがありつつも、まずは先代のやり方を学び、周囲に自身の実力を認めさせたうえで自らの組織づくりに取り組んでいった東大智氏に、次世代経営者としての成長の軌跡をたずねた。

まず一担当者として家業を知る

鈴木:東社長は税理士事務所の二代目でいらっしゃいますが、承継を意識したのはいつからですか?

東氏:税理士になることを意識しはじめたのは中学生くらいからです。大学も、税理士試験を受験するために学科を選びました。大学院修了後は東京のコンサルティング会社に就職しました。管理職を経験した後、グループ会社の税理士法人の代表として33歳まで勤め、2011年に実家に戻りました。

鈴木:家業に戻られたきっかけは何だったのでしょうか。

東氏:東京でマンションを買って、子どもも生まれていましたし、当面は長崎に帰るつもりはありませんでした。いつかは継ぐかもしれないな、というくらいの感覚だったんです。ただ、あるとき横浜生まれの妻から長崎に帰ってもいいよと言われたのを機に、いつか帰るのであれば父も私も元気なうちに帰ろうと思ったのです。

鈴木:お父様はどういう反応でしたか?

東氏:継いでほしいと言われたことはありませんでしたが、私が帰ってきて父が元気になったと従業員が言っていましたし、喜んでくれたのだと思います。私が戻る前までの父は気力が薄れ、会社を畳んでもいいと言っていたようです。

鈴木:やはり継いでほしかったのでしょうね。入社した頃の御社の状況を教えてください。

東氏:12人ほどの事務所にパソコンが3台というアナログな世界でした。長時間労働で休みが少なく、給与水準も低かったですね。
父からは「1年間は俺のやり方でやってみてくれ。その後変えるべきところは変えていけばいい」と言われたので、副所長という肩書きではありましたが、最初の1年間は一担当者として実務を担当しながら父のやり方を学びました。

若手を採用し、組織づくりへ

鈴木:事業承継計画については議論しましたか?

東氏:当初より父から、父が70歳、私が40歳というきりがいいときに交代しようと言われていました。

鈴木:7年間ほど伴走しながら、徐々に権限移譲されていったのでしょうか。

東氏:1年間は一従業員として勤め、2年目には自分の実力が父を含め周囲に認められるようになり、3年目からは税理士としての実務全般を任されるようになっていました。

鈴木:なるほど。採用も東社長が担当されていたのでしょうか。

東氏:はい。実は私が入社した1年後くらいに、12人中6人が相次いで退職しました。私が副所長として入社したのに、一従業員として働くだけで何も変わらないと失望したのかもしれません。それで一気に8人ほど採用しました。

鈴木:自分がトップになったときに、自ら採用した人が幹部になっていると、組織づくりを進めるうえで非常に心強いと思います。

ネクスト・プラスは、子育てと仕事の両立を応援する企業として、25年度、厚生労働大臣より「くるみん認定」を受けている

東氏:父からも「お前の従業員だから」と言われていました。ありがたいことに、残ってくれた6人と採用した数名はいまも頑張ってくれています。
この、人が入れ替わったタイミングから組織づくりに取り組みました。当時残ってくれた6人は、所長である父の顔色をうかがって仕事をしていたように感じました。厳しい親方と親方の指示を待つ弟子たちといった関係性で、客観的に見て、みんなきつそうだなと思っていたんです。ですから私は「これをやれ」ではなく「一緒にやっていこう」という姿勢で関わるようにしました。
また、新人を採用したので指導する必要があり、ベテランを管理職に据えて指揮系統を整えていきました。彼らは当初、自分たちでは私の指示する改革はできない、と動いてくれませんでした。そこで、新しく雇った若手に改革を実行させることにしたのです。それがきちんと進捗している様子を見て、ベテランたちも動くようになっていきました。

鈴木:できるようになってくると自信もつき、副所長の言うとおりにやってみよう、という空気になっていきますよね。

東氏:いい循環が生まれて、徐々に長時間労働も是正していきました。

資金繰りの重要性を学び、承継後から新たな取り組みを開始

鈴木:13年にたちばな信用金庫さんのたちばな未来塾に参加されていますが、印象に残っていることはありますか?

東氏:ちょうど資金繰りをきちんとやらなければという問題意識があった時期で、会社の預金残高を把握することの重要性を学びました。一度、経理担当者から、お金がないと言われたことがあったんです。その人も作業的に確認していただけだから、なぜそんな状態なのかがわからない。当時は試算表もなく、私もわからない。毎日預金残高を確認して報告してもらうようになって、先の見通しも立ち安心して経営できるようになりました。

鈴木:その後も従業員の方が参加されていますよね。

東氏:いままでに10人くらいは参加しています。私たちの仕事は経営者をサポートすることですから、経営者や後継者の方々と一緒の場にいるということが大事だと考えています。顧客企業の後継者の方と同席するといったこともありました。

鈴木:17年に承継されてからは、保育園の開設や税理士法人化、長崎市に進出と新しい取り組みに次々と挑戦していらっしゃいますね。

東氏:保育園は18年3月に開園しました。育休中だった従業員2人のお子さんが保育園に入れなかったことがきっかけで、保育事業に興味を持ったのです。お客様が地域の方につないでくださって、例えば空き地を駐車場として借りるといったこともスムーズに進められました。さまざまな場面で「ああ、あそこの税理士さんね」と、父が地元で30年以上税理士業を営んできたことが信用につながり、地域の方々に歓迎される形でオープンできました。

鈴木:先代の時代には考えられない取り組みだと思いますが、先代はどのような反応でしたか。

東氏:会長としては反対だけれど、親としては応援したいと言っていました。父はお金は貯めておけという人で、本業以外への投資などはしなかった。ですから、本業をないがしろにしていると感じていたようです。会話のない冷戦状態の時期もありましたが、いまでは一緒にゴルフにも行きますよ。

仕事の価値を見つめ直し、環境に合わせて値上げを実施

鈴木:業績の推移について教えてください。

東氏:私が入社する数年前から毎年売り上げが1000万円くらいずつ下がり、入社時には1億円を切っていました。そこから1・3億円に回復し、私が代表になった17年から数年間は1・3億円台。その間は従業員数が増え、顧客数も180社から220社前後に増えて、保険代理や経理代行などの周辺業務へも進出していました。
その後、一人ひとりの生産性を上げて少数精鋭化する方針に切り替えました。結果、従業員の給与も上がっています。コロナ禍で周辺業務からは撤退したものの、現在の売り上げは1・6億円を超えています。

鈴木:売り上げが上がっている理由はどこにあるのでしょうか。

東氏:端的に言うと値上げです。従業員に対しては、自分たちは価値のある仕事をしているんだという意識づけを行い、無料で引き受けていた作業も有料化していきました。
料金体系を明確にし、顧客の経理体制や書類の整備状況によって、基準料金に上乗せするのかどうかといった判断は、幹部たちに任せています。また、顧問契約は一般的には自動更新ですが、毎年受注契約を結ぶようにし、そのタイミングで料金交渉を行っています。

鈴木:仕事の価値を正しく値付けするためには、勇気や覚悟が必要ですが、その基準を決めるのはやはり経営者の仕事だと感じます。

東氏:そうですね。インフレに合わせて料金を改定できる環境にしておくことも大切だと思います。

鈴木:最後になりますが、自身のご経験を踏まえて、後継者の方へメッセージをお願いします。

東氏:承継はしたものの株の問題や先代がいるから自由にできない、と言う経営者の方が結構います。しかし、せっかく代表という肩書きを得たのであれば「親が何と言おうと自分がやるんだ」という覚悟をもたなければ、従業員も顧客も自分のほうを向いてはくれません。後継者の方々にはぜひ覚悟をもって自分の道を進んでもらいたいと思います。

税理士法人ネクスト・プラス 代表社員 東大智氏
1977年、長崎県生まれ。横浜国立大学経営学部会計情報学科を卒業後、同大学院を修了。02年、株式会社エスネットワークスに入社。管理職を経て、グループ会社の税理士法人の代表として勤務。11年、父親の税理士事務所に入社。17年、グループ会社の代表取締役に就任。18年、企業主導型保育園「みらいの保育園」を開園し、オーナーに就任。19年、税理士法人を設立し代表社員に就任。20年、『跡取り社長だからこそできる事業承継“創業”』(BookTrip)を出版。

次世代経営者成長のカギ

  • 前職の経験があろうとも、事業承継は「郷に入れば郷に従え」の精神で、まずは家業に馴染むこと。周囲からの信頼を得なければ組織は変わらない。人は理屈だけでは動かない
  • 次世代の組織づくりは、家業に入った段階から自ら採用を行い、仲間づくりをしていくことが肝となる
  • 「自分たちの価値」を正しく値付けする勇気と覚悟をもつ。値付けは経営そのもの。お客様が喜び、かつ自分たちも喜ぶラインを決めるのが経営者の仕事である

Company Profile

  • 会社名:税理士法人ネクスト・プラス
  • 所在地:長崎県諫早市幸町32番8号
  • 設立:2019年(創業1985年)
  • 資本金: 500万円
  • 従業員数:16名(ネクスト・プラスグループ全体33名/2026年3月31日現在)
  • https://next-plus.nagasaki.jp/

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2026年5月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。