バスケット条項 (ばすけっとじょうこう)
M&Aの最終契約において、損害賠償を請求できる「最低基準額」を定めたルールのことです。買収後、売り手の契約違反(表明保証違反など)によって買い手に損害が生じた際、その合計金額があらかじめ決めた基準額を超えない限り、売り手へ賠償請求できないとする仕組みです。
英語表記
Basket Clause
役割・実務での使われ方
「細かな紛争の防止」と「売り手の保護」
M&A実行後(クロージング後)に、数万円〜数十万円程度の少額な未払い金や契約違反が発覚することは珍しくありません。しかし、その度に買い手が売り手に損害賠償請求を行っていては、時間も弁護士費用もかさみ、円滑な事業引き継ぎ(PMI)の妨げになります。バスケット条項は、こうした「実務上許容すべき細かなノイズ」を弾き、売り手が過剰な賠償請求に怯えることなく売却を決断できるようにするための重要なクッションの役割を果たします。
一般的な使われ方(企業間の大型商取引)
M&Aに限らず、システム開発の大型業務委託契約や不動産のバルク売買、企業間の継続的な商品供給契約など、取引規模が大きく細かな欠陥が不可避的に発生しうるビジネス契約全般において、紛争予防の目的で広く用いられています。
注意点
「ティッピング型」と「ディダクティブル型」の大きな違い
バスケット条項には2つの計算方式があり、実務上の激しい交渉ポイントになります。カゴから溢れた瞬間に「1円目からの全額」を請求できる方式を「ティッピング(ファーストダラー)型」、カゴから溢れた超過分のみを請求できる方式を「ディダクティブル(免責)型」と呼びます。売り手にとっては後者の方が圧倒的に有利であり、どちらを採用するかで賠償額が大きく変わります。
「デミニミス(ミニマム・クレーム)」との併用
バスケット条項とセットで規定されることが多いのが「デミニミス」です。これは「1件あたり〇〇万円以下の微小な損害は、そもそもバスケット(カゴ)に入れることすら許さない」という足切りのルールです。これにより、超少額のクレームを大量に集めてバスケット金額を超えさせようとする行為を防ぎます。
「悪意・重過失」は適用対象外になる
バスケット条項はあくまで「意図せぬミスや未知のリスク」に対するルールです。売り手が意図的に簿外債務を隠していた場合や、重大なコンプライアンス違反を意図して行っていた場合は、バスケット条項の保護は適用されず、全額の賠償責任を負うのが一般的な契約実務です。