再調達原価法 (さいちょうたつげんかほう)
企業価値評価(バリュエーション)の手法の一つで、企業の純資産をベースに計算する「コストアプローチ」に分類されます。
具体的には「対象企業と全く同じ状態の会社を、今の時点からゼロベースで作り直した(再調達した)場合、いくらのコストがかかるか?」という視点で企業価値を算定します。現在の市場価格で必要な資産をすべて買い直すための金額を計算し、そこから建物や機械などの経年劣化分(減価償却分)を差し引いて、最終的な価値を求めます。M&Aの実務においては、主に不動産や設備などの有形資産を多く持つ企業の評価に適しています。
英語表記
Replacement Cost
役割・実務での使われ方
「装置産業・設備投資型ビジネス」の評価基準
大規模な工場を持つ製造業や多くの不動産を所有している企業など、貸借対照表上の「有形固定資産」が事業の核となっている業種において、その資産価値を現在の市場価格で正確に把握するための基礎データとして活用されます。
買収価格における「底値(ボトムライン)」の検証
将来どれだけ利益を生み出すかという予測ではなく「今、物理的にこの会社が持っている資産と同じものを揃えるならいくらか」という客観的なコストに基づいているため、買い手企業にとって「最低でもこの金額の価値は担保されている」という、価格の底値(下限)を検証する物差しとして機能します。
他の評価手法とのクロスチェック(相互検証)
将来の事業計画をベースにする「DCF法(インカムアプローチ)」などの評価手法は、計画の立て方次第で結果が大きくブレるリスクがあります。
そのため、客観性の高いこの再調達原価法を併用することで、算出された企業価値が現実離れしていないかを検証する役割を果たします。
注意点
目に見えない価値(無形資産)や将来性が無視される点
企業のブランド力、熟練した従業員のノウハウ、長年築き上げた顧客ネットワークといった「目に見えない価値(のれん)」や、対象企業が将来生み出すであろう利益は一切評価に反映されません。そのため、IT企業やサービス業など、無形資産が強みとなる企業の評価には全く適していません。
正確な「再調達コスト」を見積もることの難しさ
理論上は「同じものを今買い直した場合のコスト」を計算しますが、独自のカスタマイズが施された特殊な機械設備や、全く同じ立地の不動産など、現実の市場価格(時価)を正確に算定するのが極めて困難なケースが多く、評価者の主観が入りやすい点に留意が必要です。
「減価償却分」のマイナス調整の妥当性
新品の調達コストから「物理的な劣化分」を差し引きますが、技術革新によって設備が旧式化している場合(経済的陳腐化)など、どこまでを劣化としてマイナス調整するかの判断が非常に難しく、売り手と買い手で意見が対立する要因になり得ます。