用語集

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範囲の経済 (はんいのけいざい)

共通の経営資源(人材・設備・IT・ブランド・販売網など)を複数の事業や製品で共有することで、個別に運営するよりコストや投資を抑え、収益性を高められる効果を指します。M&Aではクロスセル、共同調達、共通バックオフィス、研究開発の転用などで実現し、固定費の分散やROIC向上、企業価値の増大が期待できます。
規模の経済が“同じものを大量に作る効率”なのに対し、範囲の経済は“異なるものを一緒に運営する効率”です。

英語表記

Economies of Scope

役割・実務での使われ方

M&Aにおけるシナジー(相乗効果)の具体化

買い手企業がM&Aを検討する際、単に両社の売上を足すだけでなく、買収によってどれだけコストを削減できるか(コストシナジー)、売上を増やせるか(売上シナジー)を定量化する必要があります。範囲の経済は、このコストシナジーの主要な源泉となります。例えば異なる顧客層を持つ企業を買収し、自社の物流網やカスタマーサポートを共有することで1社あたりの運営コストを大幅に引き下げる、といった実務での活用例があります。

多角化戦略の推進とROIC向上

自社とは異なる事業領域に進出する「多角化」において、範囲の経済が働くかどうかが成功の鍵を握ります。自社の強みであるITインフラやブランド力を新しい事業にも適用(共有)できれば、新しい事業をゼロから立ち上げるよりも少ない投資(投下資本)で収益を上げられるため、ROIC(投下資本利益率)の向上に直結する財務戦略としての役割を果たします。

注意点

「共有コスト(複雑性)」の増大とシナジーの相殺

経営資源を共有することは効率的である反面、異なる事業を1つの会社やITシステムで管理するため、組織の複雑性が増します。
各事業間の調整コストや、複雑なシステムの維持管理コスト(コーディネーション・コスト)が予想以上に膨らみ、当初期待していたコスト削減(範囲の経済)の効果が相殺されてしまうリスクに注意が必要です。

「ブランドや販売網」の共有によるデメリット(カニバリゼーションなど)

M&Aで異なる製品を共通の販売網やブランドで売る(クロスセル)際、もし製品同士の相性が悪ければ、自社製品同士で顧客を奪い合う(カニバリゼーション)が発生したり、ブランドイメージが曖昧になったりする恐れがあります。共有する資源がそれぞれの事業にとって本当にプラスになるか、PMI(買収後の統合プロセス)での慎重な舵取りが求められます。

PMI(統合プロセス)での「システムや文化の壁」

異なる会社が持つ経営資源(特にITシステムや人事制度、企業文化)を実際に共有・統合することは、実務上極めて困難なプロセスです。
統合が長引いたり失敗したりすれば、範囲の経済を享受するどころか事業の運営に支障をきたす恐れがあるため、買収前の財務DDだけでなくPMIを見据えた組織DD(人事デューデリジェンス)が不可欠です。

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