生き残りを賭けてグループ拡大を目指す
業界再編をリードする段ボールメーカー
富山県に本社を置く段ボールメーカー、サクラパックス。2008年に社長に就任した三代目、橋本淳社長は、「理念と戦略」の両輪でPDCAを回し、社長就任から16年で年商を倍増させた。同社の経営モデルを広めていくことで経営状況のよい企業を増やしたいという想いを胸に、業界再編のリーダーシップをとるべくM&Aを活用している橋本氏に話を聞いた。
Profile
サクラパックス株式会社
代表取締役社長 橋本 淳(はしもと あつし) 氏
1971年富山県富山市生まれ。大学卒業後96年にサクラパックスへ入社。専務、副社長を経て2008年、社長に就任。会社を創造性豊かな企業へと大きくつくり変えた。現在はトータルパッケージサービス企業として事業領域を拡大、北陸屈指の有力企業となっている。著書に『理念ドリブン 旧態依然とした会社を継いだ3代目経営者の組織改革』(幻冬舎)がある。
世の中を笑顔にする段ボールメーカー
1947年に創業したサクラパックスは、段ボールの製造販売から包装設計までをトータルで行うパッケージメーカーだ。富山県に本社を置き、北陸信越地方を中心に事業を展開。顧客がもつニーズに対応した高い企画力と設計力で、多種多様な包装資材を駆使して最適なパッケージを設計。取引先からの依頼を受け「雨や強い日差しなどの天候への耐性が強くドローンでも運べる軽い箱」や、握れる工夫を施した「持ちやすいダンボール」を開発するなど、難易度の高い要望に応えることで、圧倒的な信頼を寄せられている。
そんな同社は2019年、包装資材・機械の専門商社、イシワラをM&A。さらに23年、段ボール製造販売のミヤゴシを買収し、完全子会社化した。
「私は08年に社長になってから、理念に基づいた経営を実践し、『行動』を重視する、当社なりの『SAKURA経営モデル』をつくり上げました。それによって当社は利益を上げ、優良企業となったのです。このやり方を他の企業にも伝えていきたいと考えました」
M&Aを進める理由の一つについてこう語るのは、同社の三代目、橋本淳社長だ。橋本氏は、ワンマン経営だった父親の代から一転、理念経営を実践。管理職以上のメンバーと一緒になって理念を考え、それを基にミッションを立て、行動指針をつくっていった。単に数字上の売上目標を追うのではなく、お客様先に何回訪問したのか、キーパーソンに何回会うことができたのかといった、それぞれの「行動」を重視する考えを徹底させた。
「SAKURA経営モデルの特徴として、1週間ごとに目標を決め、PDCAを回し続けていくというものがあります。1週間という短いスパンで細かい活動を迅速に行っていくことで、間違っていた場合でも素早く行動を変え、対応することができる。さらに、結果も早く出せるようになったのです」
こうした、すぐに行動できる仕組みと、従業員への徹底した理念教育によって、同社の収益は着実に上がっていった。
「当社がM&Aをすることで、グループとなる企業が当社のSAKURA経営モデルをカスタマイズして実行することもできます。それができれば、当社と同じように業績を向上させることも可能になると考えました」
グループ会社の業績がよくなれば、そこで働く従業員を笑顔にすることができる。自社の従業員、M&Aをした会社の従業員、そして関わる多くの人たちを「笑顔にすること」──。これが同社の使命の一つだと考えたのだ。

ハートのリレーで笑顔を創る
橋本氏がこうした考えに至った原点は、11年に起きた東日本大震災で被災した人たちの支援を行った際の経験にあるという。
「当時私は、日本青年会議所の副会頭として活動していました。防災の担当だったこともあり、震災が起きた際に、本部団の本部長として、被災地の復興に深く関わることになったのです」
橋本氏は半年以上にわたり、被災地支援に注力。本業の段ボールに関する知識などを活用し、靴箱やベッドなどを製作して提供することもした。辛い思いをする人たちに寄り添いながら、支援に尽力したのだ。
「その時、多くの人たちの涙や笑顔に出会い、自分が存在する意義は、こんなふうに『誰かの笑顔のために働くことなのだ』と感じました」
こうした経験を経て、改めて社長としてサクラパックスの存在意義や理念を検討。同社の管理職全員と話し合うことで、今後の方針を決めていった。それが、「ハートのリレーで笑顔を創り、世界の和をつなぐ。」という経営理念だった。
さらに、「理念を実践するためには『戦略』が欠かせない」と考え、理念を浸透させ、行動に移すための仕組みをつくっていった。
「例えば、目の前の山に登ると決めたとき、その頂上に進むための方針が『理念』で、従業員全員がそこに向けて登っていくことが大切だと考えています。別の山に登ろうとする人がいたり、誰かが『登らない』と言い出したりすると、チームは弱くなります。また、その山に登るために必要な道具が、いわゆる『戦略』だと思うのです」
北陸信越地域の段ボールメーカーすべてにアタック
SAKURA経営モデルを多くの会社に広めていきたいという想いを秘めながら、M&Aを検討し始めた橋本氏には、M&Aを行うにあたり、もう一つの戦略的な意図があった。それが、業界再編のうねりに会社が飲み込まれないためにM&Aを行い、自社がそのリーダーとなっていこうというものだ。
「当社の取引先のほとんどが、食品や医薬品など内需に影響されるものです。そのため、人口が減れば減るほどパッケージを必要とする商品の量も減ってくる。いくら当社が頑張っても、1社だけでは限界があるだろうと感じたのです」
10年以上前から、人口減少による内需の縮小は言われ続けてきた。それに対応するには、規模の小さな複数の会社がまとまり、グループとして協力し合う必要があるだろう。「業界再編のリーダーシップを取ることで、生き残っていこう」そう考えた橋本氏は、自社とシナジーを得られる可能性の高い企業をM&Aするべく方針を立てた。
段ボールは、その98%がリサイクルされる単価が安い製品だ。軽い割に暈が張るため、輸送にはかなりの費用がかかり、遠方への出荷は難しい。費用が折り合わないのだ。商圏はおよそ半径100キロ圏内で、富山に本社を置くサクラパックスの場合、相乗効果を生みにくい遠方ではなく、富山県を中心とした北陸信越地域の企業とのM&Aが望ましかった。

M&Aを検討するにあたり、橋本氏は、まずM&Aができそうな北陸信越地域の段ボールメーカーならびに包装資材の販売会社をリストアップ。仲介会社を通じて、それらの会社にM&Aを打診していった。
「7、8年ほど前のことです。数十社ほどをピックアップし、すべてアタックしてほしいと仲介会社に依頼しました」
同社がM&Aに積極的に動き出してしばらくすると、仲介会社から19年にM&Aすることになった包装資材・機械の専門商社、イシワラを紹介された。
さらに今から2年ほど前、再度リストアップを行って声をかけていった中から、ミヤゴシをM&Aすることになった。
双方のメリットを考えたM&A
「私たちの会社は、20社ほどある製紙会社から段ボールに使用する紙を購入してシートをつくり、それを加工しています。この段ボールのシートをつくる工程を担う会社は、全国に200社ほど。さらに、シートから箱をつくる工程だけを担う会社が2000社ほどあって、当社がM&Aをしようとしているのは、この下流工程を担っている企業がメインです」
M&A先の選定の仕方について、橋本氏はこう語る。
こうした会社とグループになれば、素材である段ボールのシートをサクラパックスがM&A先に優先的に提供できるようになる。サクラパックスでは、製品の取り扱い会社が増え、M&Aをした会社は、安定的に素材を購入することができ、相乗効果が生まれると考えたのだ。
また、23年にミヤゴシとM&Aを行ったことで、ミヤゴシが商圏としている福井県や滋賀県で、サクラパックスとしての新たな受注獲得が可能となった。地域に根差したミヤゴシの販売網を活かしながら、サクラパックスの高い設計技術や提案力を波及させていくことができるようになったのだ。

一般的に、M&Aを検討する企業の基準として、直近の業績が評価の対象となるケースは多い。だが、サクラパックスでは、M&A時点で業績が振るわない企業であっても、数年後の業績予測を考え、M&Aをすることで業績が改善する見込みがある会社に関しては、そのことを考慮して検討するという。
「当社と一緒になることで業績が向上する見込みがある企業であれば、M&A時点での業績の悪さはあまり問題にはなりません。それよりも、商圏の広がりや相乗効果の生まれやすさなどを考え、M&Aをするか否かを決めています」
待遇改善で従業員の心を掴む
M&Aをする場合、M&A先の従業員の反発などを受ける場合も多くある。サクラパックスでは、そうした課題にどう対応するのだろうか。
「当社では、まず私や役員らが従業員一人ひとりと面談を行い、要望や希望などをヒアリングします。そのうえで、待遇改善を行います」
従業員の待遇を改善するためにはコストがかかるが、従業員のモチベーションが上がればいずれ業績は向上する可能性が高い。一時的に出費が増えたとしても数年後に回収できる見込みがあるため、バランスを見ながらではあるが、なるべく既存従業員の要望を叶えていく方向で改善をしていくのだ。
従業員数が少ない零細企業の場合、業績があまりよくない状態が続いていれば、賞与も少なく昇給もしてこなかったという場合もある。そのため、従業員へのヒアリングを行った後は、まず賃金のベースアップを行う。休日日数などの待遇も、通常より少ない場合は増やし、今までより働きやすい環境を整えていくのだ。
こうした待遇改善を行うことで、M&Aを行った会社の従業員たちに、「サクラパックスと一緒になってよかった」と思ってもらう。そうすることで、従業員のモチベーションは上がる。
「2社M&Aをした経験から考えると、『従業員は、〝社長〟ではなく〝会社の理念〟に共感し、ついてきてくれているのだ』と感じます」
理念経営をとことん追求しているサクラパックスではあるが、実はまったく同じやり方をM&A先に強制することはない。
「どの会社にも、その会社なりのいいところがあります。ですから、それを尊重し、最初からすべてをサクラパックスのやり方に変えるようにと言うことはありません。よい部分は残し、変更することで互いにやりやすくなると確信している部分をまずは変えていきます」
例えば、家族的なつながりなどは、規模が小さいからこそ生まれてきた、その会社ならではのよい点だ。すべてを完璧に効率化するのではなく、M&A先のよい部分を活かしながら、サクラパックスとの相乗効果が生じる部分に関しては、効率化できるように変えていくのだ。その上で、ITの導入や、設備の新調などについては、従業員の要望を聞きながら実践していく。
また、人材に関しては、サクラパックスからM&A先に出向することはあるという。
「サクラパックスの考え方を学んでいる従業員が、M&A先で、よりよい仕事のやり方を伝えてくれたり、サクラパックスで学んできた考え方に基づいた発言や行動をしてくれることで、よい影響が波及していると感じています」
異動した人たちと既存従業員との交流によって、サクラパックスの考え方が徐々に浸透し、業績の上がりやすい組織風土へと変わっていくのだという。
「工場では少しずつ改善活動を行っていて、そうした効果は出始めています」
同社では、これまで、後継者がいない会社のM&Aを進めてきた。今後は、若手後継者がいる会社との統合についても考えているという。
「当社としても、役員クラスの人材が余っているわけではありません。当社からM&A先に役員クラスを出向させるだけでなく、後継者がいる会社とグループになることで、一緒に会社を育てていくようなM&Aも、積極的にやっていきたいと考えています」
Company Profile

- 会社名:サクラパックス株式会社
- 所在地:富山県富山市高木3000
- 設立:1949年(創業 1947年)
- 資本金:9600万円
- 従業員数:324名
- https://www.sakura-paxx.co.jp/
※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2025年4月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。