「デジタルリスクの盾」が挑む時価総額200億円超
事業領域を拡大し、人を活かすグループ経営
テクノロジーは日々発展し続けている。だが、光あるところに影が生まれるように、発展を続けるテクノロジーの裏で、それまでは考えられなかったようなデジタルリスクも生まれている。そんな、現代社会が抱える新たなリスクに対応するサービスを提供し、拡大してきたのがエルテス(東京都千代田区)だ。同社は、東証マザーズ(現:グロース)市場(以後、グロース市場)上場後、M&Aを成長戦略の一つとして位置付け、成長を加速させている。
Profile
株式会社エルテス
代表取締役社長 菅原 貴弘(すがわら たかひろ) 氏
1979年岩手県生まれ。東京大学在学中に起業。2004年、エルテスを立ち上げる。さまざまな事業のなかから、インターネット掲示板、ブログ、SNSなど新しいテクノロジーの誕生によって生まれるトラブルに着目、デジタルリスク事業に取り組む。16年、グロース市場上場。会社を拡大すべく戦略的にM&Aを行っている。
テクノロジーの発展の陰で増大するデジタルリスク
人々が手軽に情報を発信できるようになった現在、SNSによる誹謗中傷やフェイクニュース、それに伴う風評被害など、以前とはまったく違うタイプのリスクが生まれている。このテクノロジーの発展によって生まれてきたリスクを「デジタルリスク」と定義し、それに対応するための事業を手がけているのがエルテスだ。同社は、2004年に創業者である菅原貴弘氏が、東京大学在学中に立ち上げた。
「創業当初は『私自身が営業できること』を条件に、ベトナムのオフショア開発、格安航空券の販売やAIを活用した学習サポートアプリなど、さまざまな事業を同時に立ち上げ、うまくいかないものは撤退することを繰り返しました。8個ほど試した後に辿り着いたのが、インターネットにおける、いわゆる『炎上』リスクへの対策を行う事業でした」
エルテスが創業した04年は、日本のSNSの草分け的存在として多くのユーザーに親しまれたmixi がサービスを開始した年だ。その後、急成長したmixi をはじめとするSNSやブログなどが流行し、多くの人が気軽に自分の意見や考えをネット上に書き込むようになっていく。同時に企業ブログや著名人の発言内容に過剰に反応し、極度なバッシングが集中するといった事態も起き始めていた。
そうした状況にいち早く反応した菅原氏は、「誰でも情報発信ができる世の中では、個人の発信によって企業が大きなリスクに晒されることも多くなる」と考え、07年、それら「デジタルリスク」に対応するためのノウハウを提供するサービスを開始したのだ。
実際、07年にはアルバイト店員や派遣社員による投稿記事や投稿動画がネット上で「炎上」し、企業の信頼を揺るがす事態も起きており、以降、そうしたリスクは急増。同社は「デジタルリスクの盾」として事業を大きく伸長。順調に成長させていった。こうして売り上げを伸ばしたエルテスは、16年11月にグロース市場に上場を果たした。

規模が大きな市場に参入するためのM&A

そんな同社が最初にM&Aを行ったのが19年、関西圏に基盤を置き、中小企業向けに風評被害対策やWebマーケティングを行うエフエーアイ(現:AIK に吸収合併)だ。さらに20年には鉄道関連工事をはじめとした警備実績を持つアサヒ安全業務社( 現:And Security / 東京都渋谷区)をM&A。現在までに9社のM&Aを行っている。
菅原氏がM&Aを活用することを決意したのは、エルテスが上場した後のこと。
「上場したのは、創業13年目のときです。当時の売り上げは13億9000万円ほど。ゼロから立ち上げ、13年でそこまで成長させたとはいえ、同じやり方を続けていては、100億円企業へと成長するまでに100年かかってしまうのではないかという危惧がありました。そして、加速度的に売り上げを増やす手段としてM&Aを行おうと考えたのです」
デジタルリスク関連事業が軌道に乗り、中核事業となっていた同社だが、競争優位性はあるもののマーケットが小さく、成長には限界があると感じていた。
菅原氏は「会社をさらに成長させていくためには、より大きな市場への参入が必要」と考え、現在3.5兆円ほどの規模をもつ警備業界に着目。いずれ、エルテスが提供してきたデジタルリスクと、リアル領域も含めた総合的なリスクマネジメントを提供していこうと考え、17年、その足がかりとして100%子会社・エルテスセキュリティインテリジェンス(現:AIK、東京都渋谷区)を立ち上げた。まずはリアル領域で活動する警備業界の課題を、エルテスの得意分野であるデジタル技術によって解決していこうと、セキュリティ事業のDXに向けた取組みを行っていくことにしたのだ。

ITと警備という異色の組み合わせで警備業界に新風を吹かせる
立ち上げ当初は、アプリがあれば手軽にドライバーを手配できる〝ライドシェア〟のように、必要なときにアプリで警備員が呼べる、「警備業におけるシェアリングエコノミーモデル」を構想。だが、実際に着手しようとすると法律的な壁があることが判明。地に足のついたサービス開発をするためには、実績と歴史のある警備会社と一緒になる必要性があると感じ、48年の歴史をもつアサヒ安全業務社をM&Aした。
さらに20年12月、地方自治体のDX支援を行う会社、JAPANDXを設立、それに関連したSES事業(システムエンジニア派遣)など、既存事業とのシナジーを考えながらM&A先を探し、M&Aを行うことで事業領域を広げ、会社の規模を拡大していった。
また、24年には、これまでの知見を融合させ、地域の総合マネジメントソリューションに関する事業を展開。スマートシティを安全・快適・有効に最大限機能させるべく、行政とも連携しながら、現在は、不動産管理業務運営と、業務効率化のDXソリューション開発事業も行っている。
役割の明確化がスムーズなグループインにつながる
このように、既存事業と親和性の高い事業をもつ会社とのM&Aを次々に行っていった同社は、M&A後の事業統合についてもナレッジを蓄積していった。たとえば、譲渡企業の社長がM&A後も会社に残って采配をふるう場合と、そうではなく完全に引退する場合とでは、M&A後のやり方を大きく変えている。「創業社長が残ってくれる場合は、最初に当社から出向する役員と話をし、互いの役割を明確にします。そうすることで、現場の混乱を防ぐのです」
警備会社をM&Aした際には、エルテスから出向した役員が、会社のデジタル化や新規事業の創出などを受けもち、以前からいる役員たちには、既存事業の新規出店や実業の部分を担ってもらった。
「誰が何をやるのかを明確に線引きし、従業員にも周知させるようにしました」
オーナー社長が退任する場合には、その後の混乱がないよう、従業員と話をする機会を設け、現場の引き継ぎをスムーズに進めるようにしている。
大切なのは譲渡企業の社長の人柄を見極めること
M&Aをする企業を決める際には「相手会社の社長の人柄を見極めることも大切」と菅原氏は言う。「M&Aではデューデリジェンスが重要ですが、きちんと行ったとしても、すべてのリスクを事前に洗い出すことは難しいと考えています。M&A後に生じる問題点を見てみると、『実は経営者の資質から生じていた』というものも多く、M&A先の経営者が誠実な人柄かどうかといったことも重要なのです。実際に相手に会って話をしてみることで、どのような人柄かはある程度わかります。それによってそうしたトラブルはかなりの割合で避けることができます」
そのほか、相手企業の従業員や取引先などのSNSに、どのような内容が書かれているかを事前にチェックすることも行っている。
「今は転職サイトなどでも実際に働いている人が書いた口コミを見ることができます。ほんの少しの努力で、より正確に相手の会社が誠実かどうかを見極めることはできるのです。地道な努力を厭わずに行うことも、M&Aを成功させる重要な要因といえます」
自分をさらけ出すことで信頼関係は構築できる
もちろん、M&Aをうまく活用するためには、M&Aをした会社の従業員といかに信頼関係を築いていくかということも重要だ。
菅原氏は、譲渡側の従業員がグループになじむためのさまざまな融和策を実践している。
「私がゴルフが好きだということもあり、ゴルフコンペに誘ったりもします。M&Aをした警備会社では、体力や腕力に自信のある人が多いので、腕相撲大会なども開催しています。あっという間に負けてしまいますが、大会には私も参戦します」
地方の会社の場合、最初は「よそ者」と認識され、壁をつくられてしまうこともある。その壁を破るには、イベントを一緒に楽しむ経験も重要なのだ。
「M&Aをした会社の従業員には、私の父親世代の人がいることもあります。年配の人にも若手にも信頼してもらうためには、こちらの人間力が試されます。腕相撲や懇親会でまずは自分自身をさらけ出し、相手がつくった高い壁を取り払っていくのです」

地方の中小企業には未だにM&Aに対する忌避感をもつ人が多い。従業員も社長も「買収された会社は乗っ取られる」「従業員は有無をいわさずに辞めさせられる」などのイメージをもち、勝手に思い込んでしまっている場合もあるという。「M&Aによって一緒になった従業員は、会社にとって大切な財産です。人的リソースが必要だからこそM&Aを行っている側面があるのですから、リストラをする理由はありません」
リストラどころか、人をどんどん採用するため、従業員は増え、M&Aをした会社には活気が生まれることのほうが多い。新たにM&Aをした企業の従業員に対しては、エルテスが過去にM&Aをした企業の現状を知ってもらい、なぜM&Aをするのかという理由をわかりやすく説明することで、不必要な不安を払拭しているという。
菅原氏が考えるM&Aの一番のメリットは、事業を拡大する時間を短縮できることだという。もし新事業をゼロから立ち上げるとなれば、起業家と同じような強いパワーや運、目利きの力も必要だ。
「これは創業社長だからこそ成し得たことで、誰にでもできることではありません。それに比べ、すでに基盤が出来上がっている事業を大きくすることは、優秀な従業員であれば可能なのです」
25年2月期の同社の売り上げ実績は、グループ全体で約73億円。そのうちM&Aによって取得した企業だけで、42億円となっている。M&Aがエルテスグループの成長領域を創出する役割を担っているといえる。
さらに25年5月にそれまでの経営企画を更新し、3カ年経営計画を発表。時価総額200億円超を目指す。また、足元では既存事業の営業利益率10%の水準を目標とし、新規事業・M&Aなどのアプローチも活用。企業価値を向上させていく。今後も、高いシナジーを確認した警備業やSESなどに関する事業について、さらなるM&Aを行うと同時に、グループ全体のシステム統合・業務標準化、管理部門機能の統合等の取り組みを推進していく予定だ。

出所:エルテス作成資料『事業計画及び成長可能性に関する説明資料
3カ年経営計画(2026年2月期〜2028年2月期)』
Company Profile
- 会社名:株式会社エルテス
- 所在地:東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング6階(東京本社)
- 設立:2012年(創業 2004年)
- 資本金:12億2300万円(2025年2月末時点)
- 従業員数:466名(2025年2月末時点・連結)
- https://eltes.co.jp/
※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2025年9月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。