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M&A戦略インタビュー

ホールディングス体制で事業会社をサポート
大切なのは“想い”の統合

2019年、高栄運輸グループはホールディングス体制に移行。それに伴い、つばさホールディングスと社名を変えた。同社は、法務、財務、経理などのバックオフィスを整え、従業員が働きやすい環境を構築し、シナジーが生まれる企業を次々とグループイン(M&A)。従業員が生き生きと働く企業として成長している。

Profile

つばさホールディングス株式会社
代表取締役 猪股 浩行(いのまた ひろゆき)氏

猪股 浩行氏

1969年生まれ。新潟県出身。1982年に引越し事業を開始、2011年、高栄運輸の経営に参画。2019年、高栄運輸グループをホールディングス化し、つばさホールディングスを設立、代表取締役に就任。現在は、つばさホールディングスをはじめ、グループ会社であるつばさロジスティクスほか3社の代表取締役を務めている。

ホールディングス化で地域を牽引する企業に

つばさホールディングスグループは、東京都の西側に位置する多摩地域を拠点とし、主にトラックで物を届けるロジスティクス事業と自動車やバイクを整備するモビリティ事業を主軸に事業を展開している。母体となったのは、1973年創業の運送会社、高栄運輸だ。
「高栄運輸が経営難に陥り、従業員との労使関係がうまくいかなくなった時、知り合いから『会社の再建を手伝ってほしい』という依頼を受け、2011年に取締役に就任しました」
猪股浩行社長はもともと、高栄運輸がある立川市とほど近い、東京都府中市で引越し業を営んでいたという。

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「最初に『再建を手伝ってほしい』と言われたときは、『他の会社を引き受ける余裕はないから』と断ったのです。
でも、話をしていく中で、会社をすべて引き受けるのではなく、業務改善のみであれば手伝えるだろうと考えました」
猪股氏の尽力もあり、悪化していた経営陣とドライバーとの信頼関係を取り戻した同社は業績を改善。約5億円だった年商は、5年後、約20億円に拡大した。
「高栄運輸の業績が良くなるにつれ、銀行や仲介業を営む会社から、『M&Aをしないか』という問い合わせが来るようになりました」
そこで、シナジーの得られる会社を軸にM&Aを行い、グループ企業を増やしていった。グループが大きくなるに従い、財務などのバックオフィスや、運輸業務に必要な法律の把握など、より高い専門性が必要だと感じるようになったという。

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高栄運輸が行ってきた事業はつばさロジスティクスと社名を変え、グループ各社の強みを複合的に組み合わせた取組みで、さらなる発展を目指している

とくに近年では、運輸業界にもDXの波が押し寄せ、ITやAIに関するリテラシーを持つ人材が必要となってきた。また、運輸業を取り巻く法律の規制も厳しくなっている。
「現在、運輸業に関して確認しておかなければならない法律というのが、実に320ほどあるのです。これだけ多くの法律が関係してくると、毎年何らかの改正がなされる状態となっています。それを抜け漏れなく対応していくためにも、専門の部隊が必要だろうと考えました」
グループ全体の利益を考え、法務、ITや広報、財務といったバックオフィスをまとめ、事業会社が業務に専念できる環境を整えるため、ホールディングス体制を取ることにしたのだ。

19年、ホールディングス体制へと移行する折に、猪股氏はホールディングスの社長に就任した。
「私たちは、この地域にある中小零細企業を牽引できるような企業になっていきたいと考えています。そのためには、ドライバーだけでなく、財務や法務、ITに関するスペシャリストたちが『一緒に仕事をしたい』と思えるような組織をつくる必要がある。そうした企業になるためにも、ホールディングス化は必要だと考えました」

拡大戦略をとる中 最初のM&Aに着手

「最初のM&Aは、ホールディングス化前に行いました」
16年8月。金融機関から紹介され、カーライフサービス多摩車両(現、つばさモビリティ、以後、多摩車両)という、今年で創業78年を迎える老舗の自動車整備会社をM&Aした。
高栄運輸は会社の再建が終了し、拡大傾向にあった。運輸業を営む場合、事業で使うトラックは緑色のナンバープレートを使うことになっている。俗に言う“緑ナンバー”だ。緑ナンバーをつけた車は、一般とは違う内容で点検義務を負っている。
高栄運輸では、トラックの整備については外部に委託していたが、近年、法定点検内容の改正など、細かな法律の変更も多く、そうした変更に確実に対応していくためには、整備部門の内製化は必要だろうと考えられていた。

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同グループとして最初にM&Aを行ったカーライフサービス多摩車両を前身とするつばさモビリティ

「内製化をする際、人を雇って設備投資を行うなど、ゼロからやっていくよりも、M&Aによって経験も技術も高い人材に会社ごと仲間になってもらったほうが、時間的に早い。資金面のことを考えても、その方がいいということで、M&Aをするという決断をしたのです」
こうして多摩車両は同社のグループ会社となった。

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M&A後も前経営者とのコミュニケーションが大切

M&Aによって車両整備を内製化した後は、シナジーが生まれるような企業とのM&Aを繰り返し、つばさホールディングスは運送会社を中心に8社がグループとなっている。
業容を拡大している同社だが、M&A後のPMI(Post Merger Integration、M&A成立後の統合プロセス)に関するセオリーはあるのだろうか。
「M&Aは、1社たりとも同じように進むことはありません。同じ運送業であっても、会社の歴史が違い、そこで働く人も違います。『こうすればうまくいく』というような正解や答えはないと思っています」

ただ、PMIにおいて大切にしていることはある。その一つが、前経営者の想いをいかに引継げるかということだという。
「前経営者は、会社に強い想い入れを持っている場合がほとんどです。ですから、『株式の譲渡が成立したら終わり』、というように、ドライに割り切ることはできません」
同グループでは、一定期間、何らかの肩書きで引継ぎを依頼。その引継ぎ期間に、書面上には出てこない具体的な業務について引継いでいく。
「引継いだばかりの最初の四半期は、従業員とも取引先ともまだ関係性ができていませんから、そうした関係性の構築に協力してもらいながら、具体的な実務の引継ぎを行います。私たちの考えややり方を実際に見てもらうことで、安心してもらえるようにコミュニケーションを密にとっていきます」

前経営者としては、会社は自分が大切に育ててきた子供のようなものだ。自分は一線を引いた身だとわかっていても、側で見ていれば仕事のやり方に口を出したくなるし、割り切れない想いも抱えている。そうした前経営者の想いをきちんと受け止めながら、しっかりと対話していく必要がある。
「前経営者が、会社に対する想いを昇華させ、本当の意味で私たちに任せようと思ってもらうためには、前経営者の会社に対する想いをよく聞き、私たちの考えをお伝えするといった話し合いを、何度もすることが大切だと考えています。人の気持ちが関係してくることだからこそ、とにかく相手との対話を大切にしていく必要があるのです」

想いを統一することが大切

また、M&A後、グループとなった会社の従業員たちに向けて必ずやっていることがある。それが、「想いの統一」だ。
M&Aをした会社で働いている一人ひとりに、その会社に入った理由があり、過ごした時間がある。そして、M&Aをした会社の取引先にも、その会社に依頼するに至った経緯があり、付き合う理由がある。こうした「想い」を、グループインする際にグループ全体の想いと統合し、一つにしていくのだ。
買収された側の従業員にしてみれば、突然社長が交代すると聞かされて不安に思わないはずはない。とはいえ、不満を感じたとしても、すぐに退職することもできないだろう。「どんな人が来るのだろう」「親会社はどんな会社なのだろう」と、疑心暗鬼の目で見る人もいる。
「これまでやってきて『それでいい』と言われていたものが、経営陣が変わった途端に『それは違う』と何の説明もせずにやり方を否定されてしまえば、そこには反発しか生まれません。これまでのやり方を闇雲に否定するのではなく、もしダメであればその理由をわかるように必ず説明します」

また、規模の小さな運送会社であれば、日々の業務をこなすことだけで手一杯で、どうしてその仕事が必要なのか、会社が存在する意義は何かといったことを考える余裕はないことのほうが多い。
だが、「会社が存在している限り、その意義は必ずある。だからそれを考えるきっかけとしてほしい」と猪股氏はいう。
「だからこそ、新たにグループインした会社の従業員には、自分たちがやっていることは、ただモノを運ぶだけ、車の整備をするだけではなく、社会の課題を解決するための手段や手法なのだということをお伝えし、知ってもらうことから始めます」
そして皆の意識をつばさホールディングスグループの理念に沿うように統一していく。
「PMIに正解はありませんが、確実に言えるのは、どんなによいシステムを入れても、高性能な設備を整えても、そこにいる人たちの想いが統一されていなければ、うまくいかないということです」

理念経営を浸透

「仲間が先、自分は後。与えるものが与えられる。
信頼が先、指名は後。期待に応えると選ばれる。」
これがつばさホールディングスのグループ理念だ。
さらに同グループでは、各グループ会社も個別にそれぞれの理念を掲げている。
「M&Aをしたあと、グループの理念をふまえて自分たちが今後どう進んでいきたいか、従業員一人ひとりにしっかりと考えてもらっています。何のために仕事をするのか、誰のために仕事をするのか、そしてその仕事をすることが、社会にとってどういうインパクトを与えるのかといった内容で、今考えていることや感じていることなどを、まずは従業員一人ひとりと膝を突き合わせ、じっくりと話を聞いていきます」

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グループの理念を楽しみながら理解を深めることを目的として行われたグループ企業対抗『理念かるた大会』。読み札は、従業員から公募したものだ

それまで、会社に「理念」というものが明文化されていなくとも、話をしていくと、その会社ならではの強みや特長が従業員の口から出てくる。1対1の対話を重ねていくうちに、少しずつそうした考えを発言できるようになり、次第に従業員同士がそうしたことを話す雰囲気へと全体が変化していく。
「これまで発信する機会がなかっただけで、皆、会社に対して自分なりの想いを持っているのです」
そうした想いをまとめると、会社の理念になる。その理念を明文化することで、全員が「何のために仕事をするのか」ということに意識が向くようになり、生き生きとした表情で仕事をするようになっていく。

同グループは、今後もシナジーの見込める会社を見定めて、M&Aによって仲間にしていくという。同時に、今あるそれぞれの会社については、じっくりと幹を太くし、着実に成長させていく予定だ。
「M&Aはご縁です。会社を大きくしようとして無理矢理にM&Aを行っても、きっとうまくいかないだろうと考えています。それぞれの事業会社の幹を太くしていくことで、自然とシナジーが生まれる会社とのご縁が繋がっていくと考えています」

Company Profile

つばさホールディングス株式会社

  • 会社名:つばさホールディングス株式会社
  • 所在地:東京都立川市曙町2-38-5 立川ビジネスセンタービル11F
  • 設立:1973年(高栄運輸)
  • 資本金:9500万円
  • 売上高:約60億円(グループ連結)
  • 従業員数:414人(グループ連結 2023年5月現在)
  • https://tsubasa-holdings.co.jp

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊ビジネスサミット(現:『月刊次世代経営者』)』2024年10月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。