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M&A戦略インタビュー

M&Aを活用した新規事業の創出
ものづくりグローバルニッチ トップ企業の新たな挑戦

株式会社ROCKY-ICHIMARU
代表取締役社長 市丸 寛展(いちまる ひろのぶ)氏

市丸 寛展

タイヤ加硫機用バルブの製造などを主に手がけるROCKY-ICHIMARUは、2013年、協力工場だったING鉄工所を、22年には新栄精工をM&A。さらに23年、新規事業を創出し取引先の幅を広げるため、金属精密加工を行う長野のウインテックと千葉のKONNOPROをM&A。グローバルニッチなものづくり企業グループとしてその歩みを進めている。

シェア90%企業の新たな挑戦

1978年設立のROCKY-ICHIMARUは、神奈川県の鉄工所で自動化設備などを設計していた市丸常一氏が、故郷の佐賀県に近い、福岡県久留米市に戻って設立した会社(当時の社名は市丸技研)だ。
同氏が開発したタイヤ加硫機用バルブは既存製品より大幅に優れた性能で、タイヤ市場の拡大に伴い同社も成長。タイヤ加硫機用バルブは、現在、国内約90%、海外でも約30%という市場シェアを誇るグローバルニッチトップ企業だ。

現社長の市丸寛展氏は、94年、東京工業大学・大学院を卒業。住友金属工業で設備の新設や改造に従事した後、98年、市丸技研に入社。2017年から代表取締役社長に就任している。

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ROCKY-ICHIMARUの主力製品であるさまざまなタイヤ加硫機用バルブ

同社が最初にM&Aを経験したのは13年。経営危機にあった協力工場の日隆製作所(現 ING鉄工所)を子会社化した。
22年には、同じく協力工場である新栄精工のM&Aを行った。
市丸氏は当時のM&Aについて、次のように語る。
「どちらの会社も近距離にあり、当社からの仕事がほぼ100%の取引先でした。そのため、どんな会社でどんな人が働いているかもわかっています。ちょうど自社の内製比率を上げていこうと考えていた時でしたので、引継ぐ決断をしました」

この2件のM&Aについては、もともと関係性の深い会社への救済的な意味合いが強く、事業戦略的な方針があったわけではない。しかし、2社目のM&Aを実現させた頃、市丸氏は明確に事業拡大を意図したM&Aにも着手していた。それが結実したのは、23年10月と11月。2社ほぼ同時期に行われた。1社目は、円筒部材の切削加工や高精度な研削・研磨加工を得意とするウインテック(長野県茅野市、従業員数14名)。2社目は、半導体製造装置やFPD製造装置などに用いられる「ターボ分子ポンプ」の高精度部品といった精密加工を得意とするKONNOPRO(千葉県八千代市、従業員数17名)だ。

「時期が重なったのは偶然ですが、この2社は、当社の『新規事業を創出する』という新たな戦略としてのM&Aでした。同時期に2社をM&Aをするとなれば、必要な資金も増えますし、不安がなかったわけではありません。とはいえ、翌年まで待ってKONNOPROよりいい会社と出会える保証はない。検討した結果、2社目もM&Aを進めることに決めました」

新規事業創出のためのM&A

同社がM&Aを戦略的に活用しようとしたきっかけに、コロナ禍があった。
「19年に22億円ほどあった売り上げが、20年には約15億円にまで落ち込んだのです。その後21年、22年と業績は回復していますが、当時はコロナ禍で週4日が休みとなり時間的余裕が生まれ、今後のことをじっくりと考える機会が得られました。その時、既存市場の景気に左右されない強固な経営基盤が必要だと思ったのです」

解決策の1つとして浮かび上がってきたのが上場だった。上場を目指す上では、既存の商ルートとは別の新規事業の拡大が必要となる。市丸氏は「ものづくりを進化させ、持続可能な社会の実現に貢献する」というパーパスを打ち出し、長期ビジョン「RI‒VISION2030」を策定。「2030年にグループ全体で売上70億円を達成する」という定量目標と、「ユニークな顧客価値を共創するグローバル企業集団になる」という定性目標を定めた。「70億円のうち、20億円は新規事業による創出です。そのためにM&Aを活用する計画を立て、22年からどんな企業をM&Aするかという方針書を策定し、案件を探しはじめました」

財務経理とM&Aの担当ができる人材を新たに財務経理課長として採用。それにより、M&Aの方向性をまとめ、仲介会社へ情報提供をする際にもスムーズに行うことができたという。
M&Aをする企業の選定に、市丸氏が重視しているのが、技術を継承するキーマンの存在と社長の人柄だ。今回M&AをしたウインテックもKONNOPROも、社長がこだわりを持って真摯にものづくりを続けてきた会社だった。
「当社もそうですが、創業者が熱い想いを持って技術をつきつめるようなタイプの会社というのは、どことなく雰囲気が似ています。現場を見れば、その会社が何を大切にしているのかがわかりますから、M&Aをするかしないかの判断材料になります。PMIはこれからですが、企業風土という面での事業統合がしやすいと考えています」

また、M&A後、承継側の元社長には、すぐに引退するのではなく、なるべく数年ほど関わってもらうようにしている。
「従業員も、何年も一緒にやってきた社長が、突然辞めてしまえば心細いものです。ですから、M&A後数年は、なんらかの形で関わってもらい、十分に時間をかけて引継ぎを行っていきたいと考えています」

小さなシナジーは至る所に

同社の場合、本業がニッチトップなだけに、直接的なシナジーを期待できるM&A先は少ない。そのため、事業に関するシナジーの創出は重視せず、多くの中小企業の弱い部分であるガバナンスやバックオフィスを共有することで協力し合えばいいと考えている。
だが、実際にM&Aを実施してみると、小さいながら以前には見えていなかったシナジー効果が、いくつも生まれている。
「例えばウインテックであれば、当社のバルブや油圧の部品をつくってもらうことができます。KONNOPROは、取引先から増産やBCP対策が求められていますが、例えば福岡県にある新栄精工で、生産体制を整えることにより、期待に応えることができます」

一方で、技術力が高くても、経営体制が整っていない中小製造業は多い。
「当社も以前はそうでした。中期経営計画もなく、経営会議も形だけだったりする。それではVUCAの時代、会社を維持していくのは困難です。今後の課題としては、今後継続するM&Aに向けた組織および管理体制の構築と人材育成・確保です。当社のパーパスをグループ全体で共有していこうと考えています」

Company Profile

  • 会社名:株式会社ROCKY-ICHIMARU
  • 所在地:福岡県筑後市大字常用601
  • TEL:0942-53-7510
  • 設立:1978年
  • 資本金:1800万円
  • 従業員数:85名
  • https://www.rocky-ichimaru.co.jp

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊ビジネスサミット(現:『月刊次世代経営者』)』2024年2月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。