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M&A戦略インタビュー

二代目社長の成長戦略
技術力・信用力の向上を目指したM&A

父の急病により会社を継ぐことになった日誠電工の日原誠社長。職人の集まりだった家業を整え、入社時には4名だった従業員は、現在27名と規模を拡大。設計から施工管理までできる会社へと成長させるべく、積極的にM&Aを行っている。

Profile

株式会社日誠電工
代表取締役 日原 誠(ひらはら まこと)氏

日原 誠氏

1981年生まれ。大学では工学部で学び、卒業後、東京の企業でシステムエンジニアとして勤務。2007年、父親が急な病気となったことで事業承継を決意。2015年、代表取締役に就任。事業を拡大させている。

突然の事業承継

静岡県富士宮市にある日誠電工は、大型商業施設や工場、高層ビル、マンションなどの電気設備工事を主に請け負っている会社だ。社長の日原誠氏は、創業者である父親から二代目として同社を譲り受けた。
「大学を卒業した当初は、会社を継ぐつもりはありませんでした」
日原氏は、自身の事業承継を振り返ってこう語る。
当時、同社の仕事は主に4次、5次の下請け仕事。従業員は4名で父親も含めみな職人だった。
「『会社』というよりは『職人の集団』。父のように社長兼職人となって、この会社を経営している自分をイメージできませんでしたし、将来性についても疑問でした」
それよりは、大学で学んだことを活かす仕事に就きたいと父親に相談。システムエンジニアの道に進むことにした。

ところが2007年、父親が病に倒れ、動けなくなってしまったことで状況は一変した。
「突然のことでした。従業員たちと話をしたところ、『会社がなくなってしまっては困る。できれば血縁者に会社を引継いでほしい』と頼み込まれました。その時会社は以前と変わらず職人集団ではありましたが、私自身が社会人経験を積んだこともあり、『今の自分であれば、何かできることがあるかもしれない』とも思い、引き受けることにしました」

こうして、病気の父に代わり日原氏は実質的に会社の舵取りを行うことになった。大学を卒業して4年、26歳の時のことだった。
日原氏は、約3年間は自分自身も作業員として現場に出た。その後3年ほどは現場を管理する現場監督を経験し、次第に経営に専念するようになっていった。日原氏が戻ってきてから17年。従業員は27名と、7倍近く増えている。
同社が大きくなっていったのは、日原氏が会社を組織として整備したことが大きい。大企業に勤務していた経験をふまえながら、同業他社の良いところを学び、取り入れた。就業規則を定め、評価制度をつくり、毎年定期的に新入社員を募集して新たな人材を採用した。
「単なる職人の集団を『会社』として整える過程で、必要な人材を導入していきました」
会社として機能するように整備したことで人員は増え、納期管理やコスト管理を徹底することで、売上げや利益も向上していった。
「そうした制度が整い、近年、ようやく会社の成長を戦略的に考えることができるようになってきたところです。これからM&Aを活用し、さらに成長させていきたいと考えています」

中期ビジョンをきっかけにM&Aを検討

同社がM&Aを行うことになったのは、21年に発表した中期ビジョンの作成がきっかけだった。
ビジョン作成にあたり、日原氏は、自社の方向性について従業員と話をした。
「経営理念の中に『先ずは、社員と社員の家族の幸せの為に(後略)』という言葉があります。社員やその家族が幸せになるには、会社を家族に誇れるものにする必要がある。そのためには、技術を直接取引先に届けられるような立場に会社を置く必要があるだろうという意見が出ました」
最終顧客と直接やりとりができる位置、つまり“元請け”の仕事を取れる会社になろう。そしてそのために足りないものは何か。そう考えて出てきた意見が、「今以上に幅広い技術力」や「高い技術を持つ人材」だった。そして、これらを補うための方法の一つとしてM&Aが考えられた。

「ほかにも、会社を誇れるものにしていくためにやっていくこととして、従業員教育、経営計画の策定やそれを従業員全員に発表する場をつくることなど、さまざまな意見が出ました」
日原氏は「M&Aは“社長の仕事”として進める」とし、従業員には、「個々の技術力向上のためにセミナーを受けたり、資格取得に力を入れたりすること」や「教育担当となって若い人の指導をして育てていくこと」など、M&A以外の部分に関して、積極的にやってほしいと依頼。全社一丸となって取り組んでいくことになった。

高い技術力をより活かせる場を提供

中期ビジョンを立て、M&Aを積極的に行うことを決めたものの、日原氏は「最初は何をすればM&Aに取り組めるのかもわからなかった」という。手探り状態で取引きのあった銀行や信用金庫の担当者、会計士や税理士などに話をして情報収集を行い、地域の事業承継についての支援を行っている「静岡県事業承継・引継ぎ支援センター」への登録も行った。
最初のM&Aは、地域の金融機関からの紹介によって行われた。地元で設備関連の仕事をしている佐藤工業だ。それから約3年の間に5社をM&Aし、年商はグループ全体で約20億円と順調に成長を重ねている。

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最初にM&Aを行った佐藤工業の作業風景

同社がM&Aによって得たメリットはいくつもある。
これまで自社になかった技術力を得ることができ、双方で仕事を紹介し合うことにより、新たな顧客を得ることもできた。会社同士の人材交流を行うことで、従業員の成長にもつながっている。
「例えば佐藤工業は、プラントの配管などを自社で設計し、施工まで行っていました。それまでは設備業の中でのみ、仕事を請け負っていましたが、ほかの分野でも通用する技術を持っていました。当社と一緒になったことで電気分野の仕事も受けるようになり、取引先が大きく増えています」
建設現場での仕事は、業務によって繁閑の差がある。空きがある時期に別の分野での仕事を受けることで、受注の平準化にもつながっている。
さらに、グループとして受ける仕事の幅が広がったことで、これまでよりも大きな仕事を受けることができるようになった。
「官公庁からの仕事では、小規模ながら元請けの仕事を受けることもできるようになってきました」

丁寧に向き合うことで信頼関係を構築する

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佐藤工業で行われているクレーン講習風景

日原氏にとって、M&Aは会社を成長させることができる良い手段としてのイメージが大きいが、一昔前は、M&Aに対して、「会社の乗っ取り」というイメージが横行していたこともあり、M&A相手の経営者や年配の従業員には、未だに良くないイメージを持つ人も多い。
また、三代目、四代目と代を重ね、会社の歴史が長くなればなるほど、「自分の代で会社を手放すようなまねをしていいのか」と、なかなか決断できない経営者もいるという。

また、M&Aを行う際に苦労する点として日原氏が挙げるのは、相手の会社の実態を正確に把握することだ。とくに決算書などだけではわからない会社のブランド的価値については、詳しくヒアリングを行うという。
同社がM&Aをするのは、同社と同じか、それより小さい規模の会社だが、中小零細の建設業の場合、経営者が一人で切り盛りするワンマン企業も少なくない。仕事は経営者の“顔”で取ってくるというケースもある。そうなると、経営者が交代してしまえば、会社としてのブランド価値が損なわれることになる。

「M&Aをする会社の社長には、すべての業務を事細かに書き出してもらうようにしています。管理職への指示や作業員とのつながりなども具体化してもらい、目に見える形にするのです」
そのうえで、業務を交代するためにどのような人材を確保すべきかなども検討し、話を進めるようにしている。
また、M&A後の事業統合で難しい点について、日原氏はこう語る。
「会社によってさまざまですが、例えば、人が持つ『変化に対する拒絶反応』が、如実に出てしまうことがあります。それをどうやって良い方向に変えていくかは毎回悩みます」
変化に対しての拒絶反応は、より良い環境を提供したいと考えて行う場合でも起きる。

例えば、M&Aをした会社の中には、タイムカードと日報から、毎日事務スタッフが勤怠を入力していた会社があった。業務効率化の一環として、スマホでタッチすることで勤怠管理ができるシステムへの変更を行う際も、反発を受けたという。
「従業員の手間はそれほど変わらず、事務スタッフの作業は明らかに楽になります。ところが『プライベートのスマホを使いたくない』という反対意見が出たのです。会社からスマホを支給してもらわなければやりたくないと言われてしまいました」
勤怠管理のための通信費を個人のスマホから支払うのはおかしいという意見だった。
「スマホを使うといっても、出勤時と退勤時の2回通信するだけですから、通信費は1カ月に数10銭ほどしかからないのです。結局、会社から通信費を支払うことで納得してもらうことにしましたが、それも、1カ月数10銭という単位では支払えませんから、毎月1円を支払うことになりました」

良い変化であれ、悪い変化であれ、“変化すること”そのものに対して拒否反応を示す従業員が一定数いるのだ。
「何十年も同じ社長のもとで仕事をしてきた古参の従業員であれば尚更、『ポッと現れた若い社長の言うことは聞きたくない』という思いが生まれるのかもしれません。変化に対する拒否反応と、そうした思いが重なって、より強い反発となってしまう。M&Aの大変なところだなと痛感しています」

そうした強い反発を少しでもなくすためには、「とにかく真摯に説明をしていくしかありません」と日原氏はいう。
ただ、納得してもらえなかったとしても、勤怠管理をスマホでやることで事務作業の手間を減らせたように、明らかにやったほうがいいことはある。
「最初は時間がかかってしまうこともありますが、実際にやってみれば変えたほうがいいことが実感できます。ですから、ある程度はトップダウンでやっています」

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M&Aを行った会社で行われている社員教育の様子

さまざま仕事を行うなかで従業員が成長できる会社へ

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静岡県富士宮市小泉に新設された日誠電工の社屋

また、積極的にM&Aを推進していくための今後の課題として、日原氏が挙げているのが、ファイナンスについてだ。
「良い会社と出会えたと思っても、資金調達がうまくいかずに断念せざるを得ないことがありました。M&Aには “ご縁”というものがあり、突然良い話が舞い込んでくることもある。そうしたとき、ファイナンスの面でうまくいかなければ、M&Aを成立させられません」
M&Aには、潤沢な資金も必要だ。それには、金融機関からの信頼をいかに厚くできるかも大切になってくる。

「当社の場合、会社の規模が小さく、私が一人で会社を牽引している部分も多くあります。ですから、技術力を向上させ、収益を上げていくだけでなく、社内で私と同じように会社を俯瞰でき、財務の面でサポートしてくれる人材など、グループとして人材の層を厚くしていく必要があると思っています」
それによって対外的な信頼を得ることで、M&Aをしたい企業が出てきたとき、すぐに対応できる体制を整えていこうと考えているという。

23年の年末に行った忘年会で、現在43歳の日原氏は「50歳までに100億円企業にする」という宣言をした。
「少しずつですが、官公庁などの仕事で元請けの仕事も受注できるようになってきました。民間の大きな仕事でも、1次請けなど、発注者に近い立場で受注できるようになってきています。いずれは、従業員が成長でき、挑戦ができるような仕事の受注の仕方をしていきたいと考えています。そして設計監理エンジニアリング業務ができる設備会社として、自社の技術をさまざまな場所に提供していきたいですね」
今後も、必要な技術力を持つ会社を中心にM&Aを実施し、目標に向けて成長していく。

Company Profile

  • 会社名:株式会社日誠電工
  • 所在地:静岡県富士宮市小泉2252-11
  • TEL:0544-27-6727
  • 設立:1991年(創業 1970年)
  • 資本金:3000万円
  • 従業員数:27名
  • https://nisseid.com/

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊ビジネスサミット(現:『月刊次世代経営者』)』2024年6月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。