工場・倉庫専門の不動産会社が挑む多角化
M&Aで“人材”を獲得し、事業拡大を加速
工場や倉庫などを専門に扱う事業用不動産会社を中心に、資産運用や土地活用など、不動産経営をワンストップでサポートするタープグループ。中核会社であるタープ不動産情報を1999年に創業した三浦孝志社長は、顧客に徹底的に寄り添う姿勢で信頼を深め、お客様だった会社をM&A。2020年には沖縄にサテライトオフィスを開設し事業を多角化。M&A活用で、さらなる拡大を目指している。
Profile
株式会社タープホールディングス
代表取締役 三浦 孝志(みうら たかし) 氏
1965年生まれ。アウトドアスポーツの企画運営に携わるなかで不動産事業に興味を持ち、99年にタープ不動産情報を創業。工場や倉庫などの事業用不動産を強みとする事業展開で独自のノウハウを構築。2020年には、賃貸居住用物件を扱う会社を設立し、沖縄・石垣島にサテライトオフィスを開設。リゾート不動産を取り扱うほか、農業関連事業も開始。24年、ホールディングス化を行う。
キーワードは「衣食住財健美」
工場・倉庫専門の不動産会社を中心とするタープホールディングス。創業者である三浦孝志氏がグループの中核となるタープ不動産情報(東京都文京区、現・タープホールディングス)を立ち上げたのは、1999年のことだ。
大学を卒業後、アウトドアスポーツを積極的に行っているスポーツクラブに就職した三浦氏は、スカイダイビングやパラグライダーなどのツアーを企画する部署に配属され、企画運営のノウハウを学んだ。その後独立し、富裕層向けのアウトドアイベント会社を立ち上げたが、自身が企画したアウトドアツアーに参加する富裕層と話をしていくうちに、不動産運用や投資に興味を持つようになったという。
「とある大企業の経営者と知り合いになり、経営に関してさまざまなことを教えてもらいました。その人に言われたのが、『この先、デジタルの時代が到来しても、今と変わらずなくならないのが〝衣食住財健美〟という6つのカテゴリーに関わる仕事だ』ということでした」
なかでも「住」と「財」に関連する不動産に興味を持ち始めていた三浦氏は、その言葉に後押しされ、不動産の勉強を一から開始。経営していたイベント会社を一旦たたみ、不動産会社に就職。そこでノウハウを学び、33歳で立ち上げたのが、タープ不動産情報だった。
起業当時、単なる不動産会社ではなく、特定の分野に強みを持つほうがいいと考えた三浦氏は、ほかの不動産会社が積極的に取り扱っていない倉庫や工場を専門に扱っていくことができないかと考えた。当時、住宅やオフィス専門の不動産会社はあったが、「工場や倉庫を専門に扱う会社はどこか」と考えたときに思い浮かぶ会社はない状態だったからだ。
「駅から近い場所に物件が多い住宅やオフィスと違い、工場や倉庫は駅から遠く、不便な場所にある場合が多いのです。騒音やニオイ、振動などのトラブルが発生した場合には、住宅などと比べて裁判に発展するような大事になるリスクも高い。そうした不便さやリスクを考えると、住宅やオフィスを取り扱う不動産会社があえて参入することは少ないのです。でも、逆にいえばライバル会社がいないブルーオーシャンだと感じました」
三浦氏は、適正な工場運営を行えるように高い管理ノウハウを習得。弁護士などとも提携し、トラブルになりやすいケースでは未然に防ぐ方法を考え、実践。工場・倉庫専門の不動産会社として、ほかにはない独自性を打ち出し、顧客に選ばれる存在になっていった。
顧客に寄り添う姿勢がM&Aを呼ぶ
同社には、工場・倉庫専門という独自性だけでなく「顧客に徹底的に寄り添う」という特長がある。
たとえば工場を売却したいという依頼があったときは、解体して更地で売る選択肢など、不動産会社として手間がかからない方法を勧めるのではなく、売主の要望を聞きながらさまざまな選択肢を提示している。そのまま売る、更地にして売るだけでなく、居抜きでテナントをつけ、家賃収入が得られるような方法など、いくつかのパターンを考え、どれが一番メリットがあるかを売主と一緒に考えていくのだ。
「売主にも、さまざまな事情や要望があります。膝を突き合わせて作戦会議を行い、一番いい方法で不動産の売買を行えるようにしています」
こうして常に顧客に寄り添うことを徹底し、高い信頼を得るようになった三浦氏の元には、「会社ごと買い取ってほしい」という相談が舞い込むようになった。同社はこれまで、浅野製作所(22年にM&A。24年、タープ不動産情報と合併しタープホールディングスを発足)を含む2社をM&Aしたが、いずれもそうした相談を受けた会社だった。
もちろん、「買ってほしい」という依頼を受けたからといって、すべての企業をM&Aするわけではない。
「自社でM&Aをするとなれば、デューデリジェンスをきちんとすることは当然として、グループとしてのシナジー、実業と資産とのバランスなど、さまざまな要素を加味し、リスクを考えながら検討します。とくに実業と投資のバランスや投資内容は、M&Aをした後に生じるリスクの大小に関わってきますから、かなり詳細に確認しています」
また、高いシナジーがあるとしても、そもそも資金がなければM&Aをすることはできない。
「スムーズに資金調達をするためには、出資予定の相手に自分が思い描く未来をわかりやすく伝える工夫が必要です」
ポイントは、M&A後の事業計画について、具体的な数字なども含め、M&Aがグループの成長に役立つことをわかりやすく示すこと。M&Aをする予定の会社が持つノウハウ、社員が持つ技術などの価値、そしてそれが会社にどのようによい影響を与え、どれだけのシナジーが出せるのか定量的に記載する。M&A先が倉庫を持っているといった場合には、その活用方法やそれによって生まれる付加価値についても言及する。
「どういうことがわかっていれば『融資したい』と思うのか、融資する側の〝気持ち〟を考え、『知りたい』と思うだろう内容を想定して詳細に記すことが重要だと考えています」

まずは信頼関係を構築
さらに、M&Aで気をつけなければいけない点が「人」に関する部分だ。
別々だった企業が一つのグループになることに対して、タープグループの社員が拒絶する場合もあれば、M&Aをした会社の社員が拒絶する可能性もある。その可能性を少しでも減らすために、三浦氏は隅々まで気を配っているという。
「小さなことではありますが、たとえば『買収』という言葉を使わないことを徹底しています。『買収』という言葉には、どうしてもネガティブなイメージがつきまとう。代わりに『提携』という表現をすることで、互いの立場は対等であることを言葉でも示しています」
また、M&A直後は、社員との信頼関係構築に力を入れる。
「社員の感情にいかに寄り添えるかは、M&Aを成功させるための大きなポイントです。M&Aされた側の社員には、複雑な心境がありますから、そこをケアしつつ、仕事に対するモチベーションを上げていけるような取り組みをしていきます」
そのために三浦氏が最初にM&A先の社員に伝えているのが、給与も業務内容も変えないこと、そして雇用をそのまま継続することだ。
さらに、変えないことを宣言した後は、信頼できる人物を役員として送り、三浦氏はなるべく前に出ないようにするという。
「組織のトップである私が不用意な発言をして信頼を失ってしまえば、それをリカバーできる人間はいません。別の人間に任せることで、何かあったときにその場を収めることができるアンカー的な立ち位置をキープしておくのです」
信頼する別の人間を間に立てることで、M&A先の社員と適切な距離で接することができるようになるという。
22年にM&Aをした浅野製作所では、三浦氏の右腕として活躍している役員が、M&A先の会社に毎日のように行って社員の要望や不満などをヒアリングしながら信頼関係を構築。ヒアリング内容については密に三浦氏と共有し、要望があればそれをどう叶えていくか打ち合わせをし、優先順位をつけながら実践していった。
「半年から1年ほどかけて信頼関係を構築した後、次のステップとして、私が社員一人ひとりと面談を行いました」
面談では、タープグループにグループインしたことでどのようなシナジーがあるのかを改めて説明。そのうえでそれぞれのメンバーに期待していることを伝えた。
「信頼関係が構築されていれば、こちらの言葉に素直に耳を傾けてもらえます。本人の希望があれば、やってみたい仕事が学べるようなグループ内の別会社への出向なども検討し、本人が『やりたいこと』を実現できるよう、一緒に考えていきます」
実際、現在タープホールディングスの中核で働いている社員の中には、もともとM&Aをした会社にいた社員もいるという。「人材不足で大手企業でも即戦力となる人材がなかなか採用できないなか、隠れた優秀な人材にグループインしてもらえるのは、M&Aの大きなメリットだと思っています」
制度はよりよい方にあわせる
M&A当初は待遇を変えない約束をするものの、福利厚生や制度については「よいほうに合わせていく」と三浦氏は言う。
たとえばタープグループには、有給を取りやすい雰囲気づくりのためのルールや連休取得制度、子どもがいる社員のための在宅勤務制度や時短制度などの制度が充実している。
「私自身、せっかく休むなら、長い連休を取って旅行に行きたいですし、わざわざ混んでいることがわかっているお盆などではなく、比較的空いていて価格が安くなる時期に出かけたいと思います。社員にも同じように休んでもらいたいですし、働きやすい会社にしていきたい。そのためにさまざまなルールや制度を導入しています」
グループ会社に手厚い福利厚生があることがわかれば、M&Aした会社の社員も同じようにしたいと望むようになる。
「最初は『制度も何も変えない』という宣言をしますが、信頼関係が構築されてくると、社員のほうから就業規則などについての要望も出てきます。そうしてタープグループ内のほかの会社を参考に、よりよい方へ少しずつ寄せていくのです」
社員の要望を活かすかたちで変えていくことで、M&Aをした会社の社員のモチベーションはどんどん上がっているという。
また、会社が社員一人ひとりに望むスキルなども明確になっており、基準に達することで給与も上がっていく仕組みが構築されている。
「主任から課長までのステップはポイント制になっていて、どうすれば上がるのかも開示されていますから、昇格・昇給を目指して、モチベーションを維持して働くことができています。課長から上の役職は、将来経営に携わるゼネラリストコースか、不動産営業のプロフェッショナルとしてやっていくスペシャリストコースかを、自分で選ぶようになっています。やりたいことができるよう、さまざまな制度があり、社員はそれをうまく活用してくれています」
社員がやりたい仕事ができるグループをつくる
社員が働きたい場所で働けるようにするためにも、不動産業に関しては全国展開を目指し、さらなるM&Aも検討中だ。それぞれの地域で後継者がいない不動産会社についてM&Aを行い、工場・倉庫専門に切り替え、拠点を増やしていく予定だ。

また、20年には沖縄の石垣島にサテライトオフィスをつくり、民泊や農業を始めるなど、不動産業以外の事業も拡大している。不動産以外の事業も手がけていくことで、社員がやりたい仕事をやれる選択肢を広げることもできるようになる。そのためにも、事業の多角化を推進する予定だという。
「たとえば、社員が『不動産営業を何年もやってきたけれど、少し違うことをやってみたい』と思ったとき、グループ内には、沖縄に民泊の施設があり、畑も養蜂場もある。いまはまだ限られていますが、仕事内容や働き方を社員たちが選べるように選択肢を広げていきたいと考えています。転職せずともグループ内でジョブチェンジできる──。そんなグループを目指し、M&Aを活用して事業を多角化し、拡大させ続けていきたいと考えています」

Company Profile
- 会社名:株式会社タープホールディングス
- 所在地:東京都文京区小石川2-22-2 和順ビル9F
- 設立:1999年
- 資本金:1000万円
- 従業員数:31名
- https://tarp-group.com/
※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2025年10月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。