協業型M&Aで成長促進
コンベヤ部品とロボットSIの2本柱で世界を目指す
屋外用ベルトコンベヤ部品の製造で国内シェア52%を誇るJRC。近年立ち上げたロボットSI(システムインテグレータ)事業との2本柱で躍進し、2023年にはグロース市場での上場を果たした。16年以降、両分野に関連する企業8社のM&Aを行っており、それぞれの事業における重要な成長戦略となっている。同社のM&A全般を統括する取締役の常川陽介氏に、M&Aのポイントについて話を聞いた。
Profile
株式会社JRC
取締役 CFO 兼 CSO 兼 戦略投資部長 常川 陽介(つねかわ ようすけ) 氏
新日本有限責任監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)、デロイトトーマツコンサルティングを経て、17年インテグラルへ入社し、プライベート・エクイティ投資業務に従事。20年、投資先となるJRCに出向。IPO推進リーダーとして、東証グロース市場への上場に導く。24年4月、同社に入社。経営管理全般、全社戦略立案、M&Aを担当。
ソリューション営業で業績を拡大
JRCは1961年、現社長である浜口稔氏の父、浜口匠氏がコンベヤ部品の製造販売を開始したことから始まった。その後、稔氏の兄へと経営のバトンが渡され、現在三代目として浜口氏が同社を率いている。
飛躍の転機となったのが、2014年、コンベヤ部品周りの課題解決を行うソリューション営業を開始したことだった。「現代表の浜口稔が14年に社長に就任し、顧客の課題を解決するソリューション営業を推進していきました」とCFOの常川陽介氏は語る。
コンベヤは「工場の血液」とも呼ばれるほど重要な役割を担っている。だが、コンベヤを使っている工場の現場では「コンベヤはよく止まるもの」「故障するのが当たり前」と認識されがちだ。「止まらないようにする」、「壊れにくい部品を使う」といった発想がそもそもなく、専門でコンベヤに関する課題を解決するようなことをやっている企業もなかった。
「たとえば、ある顧客の工場では屋根の上で動いているコンベヤから、ベルトに付着した素材が屋根の上に落ちてしまうといった課題がありました。落ちる量を極力少なくする工夫で、屋根の堆積物を減らすことができれば、何度も屋根の上に登って堆積物を除去しなくてすむようになる。こうしたコンベヤ周辺の困りごとに注目し、それを解消する事業を立ち上げたのです」
他になかった発想によって同社は急速に業績を拡大。社長就任当初30億円ほどだった売り上げは、現在コンベヤ部品関連事業だけで70億円と大きく成長している。
Before
After
建物の上を通っているコンベヤから積載物が落下し、屋根の上に堆積してしまうという悩みを、ローラー部分の部品を交換することで解消。写真左は同社の部品を取り入れる前の状態。JRCのソリューション営業を受けたことで、右のように堆積物がない状態を維持できるようになった。
一方、もう1つの事業の柱、ロボットSI事業は18年から開始した新事業だ。淡路島の自社工場では、長年にわたりロボットを活用した自動化を推進し、業務効率を改善してきた。このノウハウを活かし、同じような製造業に提供する事業を展開している。
「現在多くの企業が悩んでいる『人手不足』という課題の解決ができるのではないか。そしてそれは日本の製造業を強くすることにつながるのではないかと考えています」
コンベヤ部品の製造販売を行う企業としては後発でありながら、課題を解決するソリューション営業と、製造業のロボット自動化に関するサポートを行うロボットSI事業の二本柱によって、同社は着実に業績を伸長させた。
そんな2つの事業の成長に大きく貢献しているのがM&Aだ。16年に最初のM&Aを行ったことを皮切りに、これまでに8社のM&Aを実現。いずれも業績は好調だ。
共に成長する協業型M&A
同社が最初に行ったM&Aは、戦略的に探したものではなく、仲介会社から突然連絡をもらったのがきっかけだった。
M&A相手の商栄機材はコンベヤ本体の設計からメンテナンスも手がけるメーカーだった。オーナー社長には後継者がおらず、事業の承継先を探していた。
「JRCは本社が大阪にあり、同じ関西圏にあるコンベヤ関連の製造会社ということで打診が来たのだと思います。当時JRCは部品メーカーでしたから、コンベヤ全体を扱う会社とM&Aをすることは、当社の技術領域の拡大に役立つのではないかと考え、前向きに検討しようということになったのです」
M&A当初赤字だった商栄機材だが、M&Aを行いJRCから人材を派遣して経営を行うようにすると、すぐに黒字に転じた。
「商栄機材はもともと下請けという立場でやっていましたから、立場上値上げがしづらい状況でした。まずはそこについて、適正価格で取引きが行われるように、取引先との関係を再構築していきました」
また、既存の従業員との関係に関しては、親会社の都合を押しつけることをしない“協業型M&A”という形をとった。商栄機材で長年働いてきた従業員の想いを尊重し、共に成長しようという考えのもと「どうすれば会社が上向くのか」を検討し、実践していったのだ。
さらに、従業員が「JRCと一緒になってよかった」と思ってもらえるように、働く環境の改善を図っていった。
「当初、商栄機材の工場はとても古い建物でした。そこで、M&Aを行ってすぐに、新工場を建てたのです。そうすることで、働く環境が劇的に向上しました。この環境改善によって、商栄機材の従業員に『JRCと一緒になってよかった』という雰囲気が出てきたように思います」
商品単価を上げたことで業績が上向き、新たな社屋ができるなど、働く環境も改善。頑張れば頑張るほど評価され、サポートもしてもらえる──。M&Aをしたことで、働く環境がより良くなったことを実感し、最初は「どうなってしまうのか」と疑心暗鬼だった従業員も、「JRCと一緒になってよかった」、「頑張ろう」というマインドへと変化していった。そしてこの変化が会社を活性化させ、さらなる業績アップへとつながっていったのだ。
M&Aで成長スピードをアップする
商栄機材とのM&Aが事業領域の拡大に大きく寄与したことで、M&Aの有効性を感じた同社は、積極的にM&Aを行うことにした。18年、商栄機材の次にM&Aしたのは、コンベヤ部品にゴムを接着させて表面を覆うゴムライニング加工を依頼していた大成という会社だ。同社を完全子会社化した後、21年にはドイツに本社を置くシンテゴンテクノロジー社から、食品分野に特化したパラレルリンクロボットSI事業を譲り受けた。さらに24年、中村自働機械、向井化工機、高橋汽罐工業、三好機械産業らを立て続けにM&Aしていった。

「コンベヤ部品事業とロボットSI事業の2つの事業で、M&Aはそれぞれが成し遂げたい姿に向かう際のスピードを上げることができると考えています」
24年3月、同社はM&A専用部隊を立ち上げた。PMIに関する専用人材を社内から選出し、外部からも採用。M&Aをした際は、必ずこの専門部隊から人材を派遣している。 PMIに関しては、すでにこれまでのノウハウを組み込んだ「やるべきこと」リストが作成されており、人事、経理など、部署や業務ごとに何をいつまでにやるかが一覧になっている。あらかじめ細かく決まっているリストをスケジュール通りにやっていくだけで円滑に事業統合ができ、大きなトラブルを起こさない体制を構築しているのだ。
一緒に仕事をしたいと思える人たちを見極める
これまで8社とのM&Aを行ってきた同社には、現在、さまざまなところからM&Aの打診が来るようになった。数多くある候補企業は、必ずしもよい相手ばかりではない。玉石混交の中から、同社はどうやってM&A先を選び、話を進めていくのだろうか。
「当社の代表の浜口もよく言うことなのですが、まずは相手先の社長や役員の方々と話をしてみて『この人たちと一緒にやっていきたい』と思えるかどうかを重視しています」
相手の代表者の考え方や人柄などを見極め、自分たちが一緒にやっていけるかどうかを基準としているのだ。また、限定的ではあるがM&A前に社内を見せてもらい、従業員の会話を聞いたり雰囲気を見たりして、経営陣と同じように、従業員たちとも「『一緒に働きたい』と思えるかどうか」というフィーリングの部分を大切にしているという。
「当社には、従業員を大切にする社風があります。ここの部分について考え方が合わなければ、M&Aをしても、きっとうまくいかないと思うからです」
また、M&Aには、大きく分けて3つのフェーズがある。M&A先を選ぶソーシング、M&A先の状態を確認し契約交渉をするエクゼキュージョン、M&A後の統合つまりPMIだ。それぞれのフェーズごとに、異なる難しさや大変さがあるが、常川氏はとくに最初に行うソーシングを重要視している。
「候補企業が3社しかなければ、そこから選ぶしかありませんが、100社あればその中から比較して、本当に自分たちが必要としている要素を持つ企業を選ぶことができます。そういう意味で、案件の流入数を確保することはとても大切だと考えています」
交渉段階では、コンプライアンスを遵守しているかどうかはもちろんのこと、買収予定の会社のこれまでの経営方針や社長・経営陣の考え方がJRCとマッチするかどうかを見極める。金額交渉では、専門家をうまく活用し、適正価格かどうかを確認しながら話を進めているという。
また、M&A後はJRCから人を送り、M&A先企業の文化とJRCの文化をうまく統合させていく必要がある。同社では、M&Aをした会社の全事業所を社長自らが周り、「JRCが何を目指すのか」、「どんな会社なのか」を説明。極力、従業員一人ひとりと話をし、「これからこういうことをやっていきたいんだ」と伝えると同時に、不安に思うことはないかをヒアリングする。従業員が不安を抱いているようであればその不安に寄り添い、どうすれば解消できるかを考えるなど、一人ひとりに対して丁寧にフォローアップをしていくのだ。
コンベヤで世界を目指す
M&Aを行う際に、円滑に進めるための一番のコツは「コミュニケーションに尽きる」と常川氏は言う。また、M&Aとなればどうしても「お金」が絡んでくるが、そうした面については「無理をしすぎないことも大切」と語る。無理をして高い値段を支払ってM&Aをした場合、買収先への期待値が上がってしまう。にも関わらず、当初考えていたような取り組みができないとなれば、関係がギスギスしてしまうこともあるからだ。

同社はこれまで、数十億円規模の企業とのM&Aを進めてきたが、今後も事業領域の拡大という目線を変えずにコンベヤ部品事業とロボットSI事業に関する周辺事業を行っている企業とのM&Aを進めていく方針だ。
さらに、東南アジアを中心に、海外の企業とのM&Aも検討中だ。「現在は、屋外用ベルトコンベヤの部品などを日本でつくって輸出しています。ただ、当社が手がけている屋外用のベルトコンベヤ部品の多くは消耗品のため、海外の取引先企業からすれば、1つの部品が摩耗したりしてリプレースするたびに輸入するのは手間も時間もかかります。そのため、現地に工場がほしいという要望が多いのです」
タイやインドネシア、ベトナムなどで、こうした部品をつくるような製造会社をM&Aをすることができれば、海外の取引先の利便性も増す。ジョイントベンチャーも視野に入れながら、現地の販路を持つ会社とパートーナーを組むなどして一緒にやっていければいいと考えている。
「M&Aは会社が成長するための重要なツールだと考えています」
会社の成長には欠かせない選択肢の1つとなりつつあるM&A。あくまでも自社のビジョンを達成させるための手段としてM&Aを活用し「何を成し遂げたいのか」という軸から外れることなく、M&Aを進めていくことが大切だといえるだろう。
Company Profile

- 会社名:株式会社JRC
- 所在地:大阪府大阪市西区阿波座2-1-1 CAMCO西本町ビル6F
- 設立:1965年(創業1961年)
- 資本金:1億3141万5000円(2024年3月13日現在)
- 売上高:94億7300万円(連結、2024年2月期)
- 従業員数:368名(連結、2024年2月現在)
- https://www.jrcnet.co.jp/
※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2025年1月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。