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M&A戦略インタビュー

“食”産業をグループ化
事業承継プラットフォームを構築する

後継者不足に悩む中小企業が増える中、食に特化した事業承継プラットフォームを展開する、まん福ホールディングス。2021年に創業した同社は、これまでに11社の事業承継を行い、承継したどの企業も順調に推移。24年にはグループ全体で年商110億円を突破した。中小企業の個性を合わせ、バリューチェーンを創造する同社の取り組みについて聞いた。

Profile

まん福ホールディングス株式会社
代表取締役社長 加藤 智治(かとう ともはる)氏

加藤 智治氏

1974年生まれ。東京大学大学院を卒業し、ドイツ銀行グループに入社。その後マッキンゼー&カンパニーで経営コンサルティングを学ぶ。2007年、あきんどスシローにターン・アラウンド・マネージャーとして参画。専務、取締役COOを歴任。15年、スポーツ用品を扱うゼビオの代表取締役社長に就任。21年、まん福ホールディングスを設立。17年からカカクコムの社外取締役も務めている。

食にまつわる中小企業を承継

2021年に誕生したまん福ホールディングスは、後継者不在などで悩む中小企業が増える中、食分野に特化し、事業承継を行うプラットフォーマーだ。設立から3年で既に神奈川にある老舗仕出し弁当屋浜田屋、熊本にある食肉加工会社さくらや食産、静岡にある水産加工会社山佐食品など11社をM&Aにより承継している。

代表の加藤智治氏は07年、回転寿司で知られる、あきんどスシローに経営改革リーダーとして参画。専務、取締役COOを歴任し、業界3位だったスシローを1位にまで引き上げることに貢献した実績を持つ。加藤氏は、プロ経営者として会社経営を行ううちに、創業社長のパワーや求心力に憧れ、自分自身も創業者として会社を立ち上げ、経営してみたいと起業を決意したという。
「起業をしようと決意した後、『やるべきこと・やれること・やりたいこと』の3つを軸とし、事業構想を練りました」
少子高齢化が進む日本において、中小企業の事業承継問題は日本経済のアキレス腱となっている、そう考えた加藤氏は、この事業承継問題解消に貢献することを「やるべきこと」に設定。さらに、食ビジネスや投資ファンドの投資先などでの経営経験を活かした「やれること」の中で、「やりたいこと」をつきつめ、「事業承継×経営×食」というキーワードで事業をしようと考えた。
「もともと食べることは大好きですし、スシローで食ビジネスの面白さに触れ、『やるなら“食”に関連することを』と思ったのです」

そんな時ある投資家から、アメリカのダナハー(Danaher Corporation) という会社について話を聞く。ダナハーは、ヘルスケア機器・ソリューションなどを提供する企業グループで、過去30年間に400社以上を買収してきたコングロマリットだ。業界をメーカーに絞って積極的にM&Aを行い、事業を拡大してきた。
「一般的なファンドと違い、M&Aをした会社を利益が上がる体質に改善した後、売却を出口とせず、そのままグループとして大きくなった会社です」
加藤氏は、ダナハーと同じような仕組みで事業を展開しようと、食に特化した事業承継プラットフォームを展開する会社、まん福ホールディングスを立ち上げた。

肉と魚のバリューチェーン

「私たちの場合、プロ経営者が経営を行うのはファンドと似ていますが、原則売却を目的としていないところが特徴です。基本的には創業家や創業者の想いを踏襲し、雇用と暖簾(のれん)を守りつつ、その色を濃くしていくことで、グループとして大きくなることを目指しています」

イグジットがない新たな選択肢として、売却を考える中小企業に提供。それにより、事業承継問題を解決するゲームチェンジャーになりたいと考えたのだ。
そんな同社がM&Aをする基準は3つある。

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同社が最初に手がけたM&A、湘南茅ヶ崎の老舗仕出し弁当屋「ちがさき濱田屋」(株式会社浜田屋)
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1つ目は、「食産業に携わっていること」だ。
「飲食店だけでなく、川上の一次産業に近いところから、川中の製造業、川下の販売店まで、バリューチェーンをグループ内で構築していく予定です」
また、食領域のなかでも、現在は主に肉と魚に特化している。
「絵の具でいえば全色を揃えるのではなく、赤と橙、青と水色というように、食肉加工会社と焼肉店、生鮮卸と水産加工会社と、似たような色の会社をグループ化し、グループごとに大きくしていく予定です」

同じカテゴリーの食材でグループをつくれば協力もしやすく、シナジーも得やすい。この「シナジーが期待される会社」というのが、条件の2つ目だ。
そして3つ目は「事業としての成長の可能性があること」
中小企業のM&Aは「会社の業績は良いが、後継者がいない」というケースばかりではない。多くが、事業承継とセットで、事業の継続性や成長性に関する課題を抱えている。これらの課題についても深く検討し、M&Aをするかどうかを決める。

また、これまで同社がM&Aをした11社には、地域的な特徴がある。
「熊本、静岡、東京・神奈川、北海道と、ある程度地域ごとにまとまっています。今後はこの地域特性をうまく活用して伸ばしていこうと考えています」
同社ではこのまとまりを「共和国」と名付け、「熊本肉共和国」、「静岡魚共和国」、「南関東共和国」、「北海道鮨共和国」と地域ごとにくくっている。それぞれの共和国を、一つの会社のように捉えて経営を行い、グループとしての一体感を醸成。より高いシナジーを生み出せる環境をつくっていくという。

高いコミュニケーション力がPMI成功のカギ

M&Aを行った多くの企業が、M&A後のPMI(経営統合プロセス)に苦労する。同社はどのようにして、この難題を乗り越えているのだろうか。
「当社はまだ、事業を始めて3年目がやっと終わったところですから、『これが正しい』という方法が確立されているわけではありません。ただ、PMIを行う際、基本的に同じようにしていることが2点あります」
一つは、M&Aをした会社の経営に関して、まん福ホールディングスから社長1名だけを派遣するのではなく、複数名のメンバーを参画させているという点だ。
もう1つは、業績を中心とした経営情報の可視化を行う点。
現状を把握するうえでも、今後の戦略を考えていくうえでも、情報の可視化は重要だ。
ところが、多くの中小企業では、この情報の可視化が十分にできていないという。
「飛行機の操縦にたとえれば、新しい操縦士である社長が、飛行機を操縦するためにコックピットにゲージを増やしていく作業が可視化です。これをちゃんとしておかないと、勘に頼った当てずっぽうの操縦になってしまいます。それでうまくいくこともあるかもしれませんが、勘に頼っていては難局をすべて乗り切ることはできません。経営には、論理的な数字が欠かせません。そこに経営者の勘と経験がプラスされていくことで、より良い経営ができるのです」

経営の舵取りをするためには、情報をすべて開示し整理する必要がある。そのうえで、どこに課題があり、どこに収益改善のチャンスがあるのかということを、炙り出していくのだ。
「ここで炙り出された収益改善につながる施策は、優先順位をつけ、順番を決めて一つずつやっていきます」
特に中小企業では、人員が少なく、人手不足によってほとんどの人がいくつかの業務や職務を兼務しているケースも多い。そこに新たなことをやろうとすれば何から手をつければいいのかがわからなくなってしまう。そうならないために、まずは今やっていることを確認し、さらに良くするために「次はこれをやろう」「その次はこれをやろう」と順番をつけることが大切なのだ。
「経営を社長一人ではなくチームでやること、経営情報を可視化し、やることの順番に優先付けをするという2つが、PMIにおいてとても重要なことだと考えています」

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2021年にM&Aを行った、静岡県焼津にある創業70 年の水産加工会社、山佐食品。東海地方を中心に全国的に卸先を保有しており、機械での対応が難しいサイズの加工や骨取りを、手作業で行え、フルオーダーカットも可能
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もちろん、突然、経営者が変わることに対して、既存の従業員からの反発や落胆がある場合も多い。
それに対する対策としては、2つのことが考えられると加藤氏は言う。1つは会社の将来が今まで以上に明るくなることを明確に示すことだ。従業員は、これからどうなっていくのかという不安を少なからず抱えている。だからこそ、創業者や創業家の想いはそのままに、これまでうまくいっていなかった点はより良くなるように変更し、いい点はさらに伸ばし、創業者の想いがより強く発揮できるような新たな事業を行っていく。

そうして、「これから会社は良くなっていく」というイメージを従業員と共有するのだ。

また、2つ目として、「『だから一緒にやろう。力を貸してほしい』と従業員に頼むことも大切」と加藤氏は言う。
同社の場合、M&A先に派遣される経営メンバーは、基本的には食ビジネスのオペレーションや現場での経験を豊富にもっている人材ばかりだ。
「彼らはどんな環境でも臆さず、従業員との人間関係をうまくつくっていくことが得意です。創業家や創業者の想いをきちんと引き継いでいくことを言葉や態度で伝え、ハレーションが起きない形で人間関係を構築しながらリーダーシップを発揮できる人物を派遣できるのが当社の強みです」

第2フェーズに突入

21年に創業した同社は、24年、4年目を迎え、グループでの売り上げは、110億円を超えた。
「これから先はフェーズ1からフェーズ2へ移行していきます」
これまでは、後継者がいない企業を中心にM&Aをしてきた。フェーズ2においては、事業承継前で後継者がいる企業についても、グループインしたほうが伸びると思われる企業については積極的にM&Aを行い、企業の事業承継を支援する事業もやっていきたいと考えている。後継者サポートチームを結成し、社長が現役でいるうちに、後継者を育成し、次代につなげる支援も行う予定だ。
「経営者の中には、ご子息・ご息女に事業を承継したいが、どのように引継ぎをしていったらいいかわからず不安に思う方もいらっしゃいます。まん福ホールディングスのグループとなり、グループ会社として得られる恩恵を受けながら、オーナー様が経営を継続し、後継者候補にゆるやかにバトンを繋げられるよう、次期社長を経営面でサポートしていく伴走型のニーズも多い。それを提供していきます」
グループとして一体となることで管理面では効率化、簡略化できる仕組みを提供できる。

事業承継ビジネスの新しいかたちをつくっていく

2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人と言われ、うち127万人が後継者未定。売却する側のニーズも多様化している。その受け皿として、同社のような新たな買い手は増えていく必要があると言える。
「私たちは、『日本の事業承継ビジネスはまん福ホールディングスによって変わった』、『良くなった』と言われるような事業を目指しています」

10年後、グループ全体で年商1000億円を目指すという同社。今後は国内だけでなく、海外でも同様に食に関するプラットフォームを提供していきたいと意気込む。
「海外でも、現地の人が和食レストランを開いている店はたくさんあります。そうした会社を私たちが事業承継できれば、国内の私たちが持っているグループネットワークやリソースを“かけ算”することで、その会社単体よりもより大きな事業を展開できる。そんな海外企業のM&Aもいずれしていきたいと考えています」

Company Profile

まん福ホールディングス株式会社

  • 会社名:まん福ホールディングス株式会社
  • 所在地:東京都渋谷区恵比寿西1-15-10 第6横芝ビル7F
  • 設立:2021年
  • 資本金:1億円
  • 売上高:110億円(グループ連結)
  • 従業員数:1300名(グループ連結、パートアルバイト含む 2024年3月12日現在)
  • https://manpuku-hd.jp/

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊ビジネスサミット(現:『月刊次世代経営者』)』2024年9月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。