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M&A戦略インタビュー

「プロダクト」と「ニッチトップ」でグループ化
シナジーを生むM&Aで事業領域を拡大

入力装置の専門メーカーである長野テクトロンは、会社の永続性を念頭に、シナジー効果が得られる可能性の高い会社を中心にM&A。生産技術、生産設備を構成する機械部品などを扱うファクトリーオートメーション(FA)業界からメディカル、フード、オフィスシステム事業などへと事業領域を広げ、ニッチトップ企業を仲間にしながら、ゆるやかに事業を拡大。ニッチトップカンパニーグループを目指し、成長し続けている。

Profile

長野テクトロングループ株式会社
代表取締役社長 柳澤 由英(やなぎさわ よしひで)氏

柳澤 由英氏

1977年長野県長野市生まれ。神奈川大学工学部卒業。2002年、新光電気工業に入社。2005年、父親が創業した長野テクトロンに入社。2017年、二代目として代表取締役社長に就任。M&A経営を実践し、長野テクトロングループを成長させている。

会社経営にロマンを感じた幼少期

長野県長野市で設立された長野テクトロン。同社は2023年、持ち株会社である長野テクトロングループを設立し、ホールディングス化を実現。経理、財務、経営企画など、企業経営のプロフェッショナルを集め、さらなる事業の成長を目指している。
長野テクトロンの二代目、柳澤由英社長は、子どもの頃から創業者である父親に何度も会社に連れて行ってもらい、そこで会社の将来について語る姿を見て育った。
「経営について熱く語る父の姿が格好よく、会社経営に“ロマン”を感じるようになりました」

そんな柳澤氏は大学を卒業後、別の会社で数年間過ごした後、05年、長野テクトロンに入社。父親のもとで経営を学び、17年、二代目として社長に就任した。
柳澤氏が社長になる以前の長野テクトロンは、上下接点シートに印刷された導電インクによって電気を導通させるメンブレンスイッチ(シートスイッチ)とカスタムキーボードの2本を事業の柱とし、売り上げを追わず、利益率の高い仕事を中心に健全な経営を行ってきた。柳澤氏は、この2本の柱に加え、タッチパネルパソコンや液晶ディスプレイの製造などを手掛け、事業を少しずつ広げてきた。
「会社は創業からずっと黒字経営を続けていました。ただ、永続性や社会への貢献を考えたとき、堅実な経営だけでなく、ある程度の規模拡大も必要だと考えたのです」

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柳澤氏の父親が創業した長野テクトロンの主力製品の一つ、メンブレンスイッチ。工場で使われる機械から家電製品まで、さまざまなものに使われている

柳澤氏が社長になった17年の年商は5億円ほど。そこから、新規事業へのチャレンジなど、自社内での取り組みに加え、19年から自社の事業とシナジーが見込める企業を積極的にM&Aしてきた。この、M&Aによる業容拡大の功績は顕著で、24年1月には、グループ全体で27億円ほどに拡大している。

二代目が取り組むM&A中心の経営戦略

同社が戦略的に経営にM&Aを取り入れるようになったのは、柳澤氏が社長になった後だ。
販売領域を広げていこうと考えた柳澤氏は、システムに関する新規事業を推進したり、新しい製品を企画したりしてきた。だが、「会社を大きく成長させていくためには、自社内の取り組みだけでは限界がある」と感じていたという。それがちょうど「M&A」という言葉が世に出始めたときだった。
「ただ当初、M&Aというと“乗っ取り”や“ハゲタカ”といったよくないイメージが先行してしまっていました」

「M&A」という言葉そのものが敬遠される向きがあり、柳澤氏もそんな中でM&Aを推進していくことは難しいだろうと考えていた。それが、19年頃から、後継者不在のため廃業せざるを得ない優良企業が急増。親でも親戚でも従業員でもない第三者が事業を引き継ぐ第三者承継の一つの手段として、「事業承継」とM&Aが結び付くようになったのだ。
「後継者不在の同業をM&Aする中小企業も増えてきて、少しずつではありますが、悪いイメージが薄れていきました」
同社でも、シナジーが見込める事業を持つ会社をグループ化し、一緒にやっていけないかと考えたのだ。
「19年頃、会社の将来を思い描いたとき、長野テクトロンを永続的に存続させるためには、M&Aによって事業を拡大していくことが必須だという考えに至りました。技術的にシナジーが得られる、もしくは販路拡大が見込めるような企業と手を携えて共に成長していきたいと思うようになったのです」

M&Aによって会社を大きくしていこうと考えた柳澤氏は、同社の事業とシナジーが見込める会社を探していった。
「最初は仲介会社からの提案もほとんどありませんでしたから、仲介会社のプラットフォームを通して、一緒に力を合わせてやっていけそうな企業を見つけ、1件ずつ問い合わせをしていきました」

参入障壁が高い医療関連業界にも進出

こうしてM&Aを進めてきた同社のグループのなかでも、初期の頃にM&Aをしたのが医療情報基盤(東京都千代田区)だ。
医療情報基盤は、もともと上場企業の関連会社で、病院の待合室やバックヤードなどに設置する大型サイネージ端末を扱っている会社だった。サイネージ端末を病院に無償で設置する代わりに広告を流して収益を得るスキームで、現在、100ほどの病院にトータルで約1500台のサイネージ端末を提供しているという。
「長野テクトロンでは、医療業務に関連するキーボードやスイッチ部分なども手がけており、間接的ではありますが、医療業界にも販路を持っていました。そこで、かねてから医療業界での仕事を会社の柱の一つとしたいと考えていたのですが、この業界は参入障壁が高い業界です。軸足をきちんと置いて売り上げを上げていくための技術や商材が足りていないと考えていたところに、医療情報基盤と出合ったのです」

また、サイネージ端末を提供し、広告で収益を得るというスキームは、長野テクトロンが行っていたサイネージビジネス「ホテぐる」とも親和性があった。「ホテぐる」はホテルや旅館などのロビーにサイネージ端末を設置し、地域の飲食店などの情報を閲覧できるようにしたサービスだ。
「業界は全然違いますが、ビジネスモデルが似ていると感じ、サイネージ技術などで互いにシナジーを得られる会社だということで、19年、M&Aを進めることにしました」

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2021年にM&Aしたハヤブサ技研は、創業以来30 年以上水着用の脱水機を製造販売し、業界トップの売り上げを誇る

パートナーを選ぶ際の基準として、柳澤氏は「自走している会社」を選ぶようにしているという。自社のプロダクトを持ち、同社とシナジーが得られると同時に、それぞれの業界のニッチトップになれる企業を意識して選定し、M&Aをしている。

例えば、21年にグループインしたハヤブサ技研(東京都葛飾区)は、水着用の高速回転脱水機の製造をメインにしている会社だ。この脱水機はフィットネスやスイミングクラブには必ずといっていいほど置いてあるもので、現在では全国にある4000施設に1万台ほど導入されているという。

「30年以上、高速回転脱水機に特化して製造していて、国内ではトップシェアを誇っています。経営者が高齢で後継者がいないということで、当社が引き継ぐことになりました」
まさにニッチトップ企業であり、長野テクトロンでも、水泳のトレーニングに使用するタイマーをつくっていたため、メーカーとしての技術的なシナジーだけでなく、販路などでも協力しあえるだろうと見込んだのだ。

23年にグループインしたマスターマインド(長野県塩尻市)は、フードプリンターと呼ばれる特殊プリンターの開発を行っている。近年、クッキーや誕生日ケーキなどに写真やイラスト、文字などを印刷して提供するサービスが増えている。

この「可食インク」といわれる、食べられるインクをさまざまな食品に吹き付けることができる機械を開発し提供。小型のフードプリンターでは、国内トップのシェアを持つ。ほかにも、木や布など、紙以外のものに印刷できる特殊インクプリンターの開発提供もしており、長野テクトロンでつくっているメンブレンスイッチを製造する際の、ペットフィルムに導電パターンを印刷するプリンターの製造販売も行っていたため、シナジーが見込めると考え、M&Aに至ったという。

こうしたかたちで、19年から次々とM&Aを行い、持ち株会社である長野テクトロングループを含めると、現在7社がグループとなり、それぞれが販路活用や技術協力をしながら成長し続けている。

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2023年にM&Aしたマスターマインド社の主力製品の一つ、フードプリンター。非接触・非加熱で色彩も豊か。一度にさまざまなデータの印刷が可能

新規事業創出の時間をM&Aで短縮

「M&Aの一番のメリットは、“時間”だと思っています」
経営戦略にM&Aを組み込んだ理由について、柳澤氏はこう語る。新規事業をしたいと考えたとき、ゼロから事業を育てていくには、構想し、人を集め、場合によっては機材を揃え、販路を探す必要もある。ものづくりであれば、それをつくる人材も集め、育てなければならない。人材を育てるには、10年単位で時間が必要になることもあるがM&Aであれば、そうした準備期間がなくとも新規事業がスタートできる。

とはいえ、M&Aならではの苦労もある。同社の場合、M&Aをした先の従業員から反発されないための工夫として、自分たちのカルチャーを押しつけないやり方を採ってきた。
「既存の従業員とうまくいかない理由のひとつに、会社ごとのカルチャーの違いがあります。そのため、グループ化したとしても、自社のカルチャーを押しつけないように注意しています」
まずは併走しながらそれぞれの文化について互いに知っていくように心がけ、互いのことを深く知ることで、新たにどんなことができるのかを1、2年ほどかけて探っていくのだ。

だが、グループ全体の規模が大きくなり、M&Aをする企業規模も大きくなると、別の問題も生じてくるようになった。
「経営陣が変わったのに、これまでと何も変わらない」と、変化のないことに不満を抱く従業員も増えてきたのだ。
そこで現在では、どういう意図で一緒になったのか、今後どうやっていくのかという方針についてもあらかじめ説明するようにしているという。また、業界は違っても「装置をつくる」という共通点がある会社同士、技術者や営業パーソンの交流の機会を徐々につくり、互いにシナジーを実感する取り組みをしていくことで、M&Aによってグループ化するメリットを実感してもらうように心がけている。
「これまでは比較的小規模な会社とのM&Aで、従業員と経営陣との距離が近かったこともあり、M&Aをする意図を改めて説明するということはあまりしていませんでした。今後は、M&Aをする会社の規模が大きくなり、従業員も増えてくることが想定されます。なぜM&Aをするのかという意図をグループの全従業員にきちんと理解してもらえるように、こちらから働きかける必要があることを実感しています」

それぞれの事業を太くしさまざまな価値を創出

ホールディングス化にあたり、持ち株会社である長野テクトロングループでは、財務や労務、経営企画などに関するプロフェッショナル人材を揃え、各社で共通して活用できるリソースについては共有し、個々の会社がそれぞれの事業を伸ばしていけるよう、整備している最中だ。

現在、グループでは、ファクトリーオートメーション(FA)リテール、フード、オフィスシステム、メディカル、フィットネスと5つの業界、6つの会社がシナジーを得ながら成長している。グループ各社の売り上げは、それぞれ110%ほど伸びているという。
「ホールディングス化を実現し、これまでより従業員数の多い企業をグループインしたことで、グループとして今、新たなフェーズに入ったことを実感しています。今後は1つひとつの業界の柱を太くできるよう、それぞれの業界でシナジーを得られる企業を中心にM&Aをしていきたいと思います」

プロダクトとニッチトップをキーワードにM&Aを行いながらグループを成長させてきた長野テクトロングループ。今後も、各業界のトップシェアを持つニッチトップ企業をグループに取り入れながら、スケールメリットが感じられるグループとなり、さまざまな価値を創出していく。

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長野テクトロングループ構成図

Company Profile

長野テクトロングループ株式会社

  • 会社名:長野テクトロングループ株式会社
  • 所在地:長野県長野市篠ノ井塩崎2304-1
  • 設立:2023年(長野テクトロン 1984年)
  • 資本金:1億7750万円(グループ総資本)
  • 売上高:27億円(グループ連結)
  • 従業員数:約140名(グループ連結)
  • https://nagateku-group.jp

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊ビジネスサミット(現:『月刊次世代経営者』)』2024年11月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。