垂直型・水平型M&A戦略
進化し続ける老舗酒屋の挑戦
1935年、東京都の中野で創業した柴田屋酒店は、「まちの酒屋さん」から飲食業向けの卸売りへと業態を変え、ワインの輸入などさまざまな取り組みを行い業績を上げてきた。2024年には、同業である地域の酒屋から事業譲渡を受け、現在全部で6社のM&Aを実現。グローバルに活躍する企業グループとして、拡大している。
Profile
株式会社柴田屋ホールディングス
代表取締役 柴 泰宏(しば やすひろ)氏
1967年生まれ。大学卒業後、大阪の業務用卸を得意とする酒販店で3年間修業し、家業である柴田屋酒店に入社。酒類の販売について、家庭用の小売から業務用へとシフト。ワインを商品の柱にするなど、次々と新しい施策を実施。2005年代表取締役に就任。18年、会社をホールディングス化。
柔軟な発想で事業を展開
2024年に創業90年を迎えた柴田屋酒店を中核とする柴田屋ホールディングス。同社は飲食店向けの酒類卸業を事業の中核に据え、近年はワイン、クラフトビール、日本酒などの取り扱いに力を入れている。
「柴田屋酒店は、私の祖父が中野で創業した、まちの“酒屋”でした。以前は、酒を販売するためのさまざまな規制があったのですが、1999年から酒類小売業免許の段階的な規制緩和が始まり、今では、コンビニやスーパー、インターネット上のECサイトなど、どこでも酒が買える時代となりました。柴田屋酒店は、小売から業務用卸事業に軸足をシフトしましたが、それだけでは生き残ることが難しい──。そう考え、私の代になってから、価格競争に巻き込まれないための生き残り戦略を考えるようになりました」
三代目となる柴泰宏社長は、グループの中核となる柴田屋酒店の歴史についてこう語る。


自社の強みとして、酒類のなかでもとくに種類が多く、温度管理も難しいとされるワインの取り扱いを増やし、温度管理ができる倉庫や、保冷機能付きの運搬車両を取り揃え、ワインに強い酒屋としての地位を築いていった。
その過程で輸入事業を開始。また、取り引きのある飲食店を含め、「日本の外食産業が海外に進出するための手助けをしたい」と、2012年、手始めにタイに現地法人を設立した。イタリア、韓国、ニューヨークなどにも販路をつくり、日本酒をはじめとする国産商品を、現地の飲食店に販売するという海外戦略をとった。こうして従来の〝酒屋〟という枠に囚われず、柔軟な発想で事業を拡大していくなか、柴氏は、新たにM&Aを活用した挑戦を始める。
垂直型と水平型のM&Aで世界中を笑顔にする
最初のM&Aは18年。店舗内に醸造所があり、そこでつくられるビールを提供するブリューパブを展開してきた麦酒企画(東京都、現在はSAKE-YA JAPANに統合)をM&Aした。
「ビール醸造所併設の飲食店を展開する麦酒企画が仲間になれば、当社が仕入れた酒を提供することもでき、自分たちでビールを醸造するスキームの構築もできます。オリジナリティ溢れる飲食店を展開していけると思いました」
酒を売るだけでなく、店内でビールを醸造して販売する──。そういった店を日本中に展開し、柴田屋酒店の営業拠点を増やすことができれば、卸売りの顧客にもより手厚いフォローが可能になる。
現在、柴田屋酒店では酒を提供する店舗のほとんどにビール醸造所があり、そこで醸造したビールをその場で販売しているという。

ブリューパブは垂直統合型のM&Aだったが、その後、水平統合型のM&Aも展開している。
24年2月に行ったのは、広島にある後継者不在の“酒屋さん”ミシマ酒店をM&A。その後9月、10月と立て続けに2社、同じように後継者不在の地域の酒屋の事業を譲受した。
「会社が拡大し、従業員が増えたタイミングで、経営理念を練り直し、ミッション、ビジョン、バリューを策定しました。当社のミッションは、『全社員の幸せ』と『人と人をSAKE(酒)で繋ぎ、世界中を笑顔にします!』というもの。このミッションを達成するためにも、直輸入しているワインや店内で醸造したビールを提供するという、柴田屋酒店が従来の“酒屋”の枠を超えてやってきた経営ノウハウを、全国の酒屋で展開しようと思ったのです」
地域の酒販店を柴田屋方式で盛り上げる
24年9月にM&Aをした増村酒店は、群馬県高崎市で147年という長い歴史を持つ老舗だ。
「当社は創業90年ですが、それよりもさらに長い歴史がある酒販店です。それだけ長い間、地域で営業してきた酒屋を、後継者がいないという理由でなくしてしまっていいとは思えませんでした。また、増村酒販という新会社をつくり、当社が事業を引継ぐことで、ノウハウを注ぎ込み、地域にこれまでと違う、新しい酒屋文化を広めていきたいと考えています」

さらに24年10月には香川県丸亀市にある松田酒店の営業権を譲受。柴田屋ホールディングスが100%出資する松田酒販を設立し、営業を開始した。松田酒店も、地域の一番店として地元で長年愛されてきた酒販店だったが、後継者問題に直面していたのだ。
「増村酒販も松田酒販も、M&Aを行ってから日が浅く、うまくいくかどうかはこれからです。でも、今年の2月にM&Aをしたミシマ酒販に関しては、8月に半年が経過し、中途報告を見てみると、予定していたとおりの実績が上がっています」
柴田屋酒店で培ってきた販売のノウハウをM&Aを行った地域の酒販店で活用し、実績を上げてきたことで、同じやり方で売り上げを上げることは可能だという自信が生まれた。
「私たちが事業を引継ぐことで、既存の従業員の方々が安心して働ける環境をつくっていきたいと考えています」
また、24年に行われた3社のM&Aは、酒屋の事業のみを「事業譲渡」という形で実行された。
「会社が持つ不動産等はそのままに、純粋に事業だけを引継ぐかたちにすることで、M&Aの金額はミニマムになりました。それまでは金額が大きすぎて検討できなかった企業もハードルが下がり、M&Aを進めることができたのです」
意欲ある若手が活躍できる場
これまで6社をM&Aしたことで、柴田屋グループは現在11社の子会社を持つグループとなった。
「M&Aをしたことで生まれた副次的なメリットの一つとして、『若手が活躍できる場が広がった』ということがあります」
例えば、ミシマ酒販の代表取締役には、就任時31歳の営業メンバーが抜擢された。
「抜擢したメンバーが当社で書いた『未来計画』を見ると、彼は『将来は自分が生まれたまちで柴田屋をやりたい』という計画を立てていました。ミシマ酒販がある場所は彼の地元ではありませんでしたが、『やってみるか』と打診したところ、二つ返事で『やりたい』と言われ、大抜擢しました」
「若手従業員が新会社の社長になった」という実績は、新卒や若手メンバーにとって大きな刺激となった。「地元である群馬でやってみたい」と自ら手を挙げる従業員が出てくるなど、M&Aをきっかけに、社内が活性化しているという。
世界中にSAKE-YAを広げていく
同社が現在の経営理念を打ち立てたのは、今から10年以上前のことだ。
「海外に現地法人をつくり、卸業だけでなく、ワールドワイドな仕事にチャレンジし始めたことで、さらなるステップアップを目指すようになりました」
さらに飲食業に大きな打撃を与えたコロナ禍を通じて、「市場に必要とされ続ける酒屋とはどのような業態か」と考えた柴氏がたどり着いたのが、「世界SAKE-YA構想」だ。
「今は本当に少なくなりましたが、地域にある“酒屋”という業態は、実は鎌倉時代からあるんです」
かつての酒屋は、日本酒を仕入れて売るだけでなく、常連客の好みに合わせて酒と酒をブレンドし、オリジナルの酒を売っていたという歴史もある。
そんな日本独自の“酒屋”を次の世代へと繋げていくには、世界を見据え“酒屋”を“SAKE-YA”へと変換していく必要がある。
「酒屋」は「サカヤ」と読むが、海外では日本酒を「SAKE(サケ)」と表記する。日本語の音のとおりに「SAKA-YA」と記載してしまうと、何の店か分かりづらくなってしまうため、「SAKE(サケ)」を売る店ということで「SAKE-YA」という表記に統一した。
「コロナ禍で飲食店向けの飲料が売れなくなり、今後のことを改めて考えたとき、『世界の“SAKE-YA”とは何だろう』という問いを立ててみました。そこから『SAKEの六次化』と『グローバル』というキーワードが生まれてきたのです」
24年12月にはビールに加え、その他酒類の製造ができる自社工場が完成する。また、ビールの副原料であるホップについても、国内に契約農家をつくり、生産する取り組みを始めており、契約農園で育てたホップを使ってビールをつくり、それぞれの店舗で販売している。
同社では、酒の卸業を中心として川上に上るだけでなく、川下へと下る取り組みも行っている。自社直輸入のワインを提供するワインバーを出店したのは11年のことだ。
「現在、本社の一階は店舗になっており、オリジナルビールやクラフトビールの提供をしていて、おつまみなどの軽食も楽しめるようになっています。できたてのビールをグラウラーと呼ばれる専用のボトルに入れて『お土産ビール』として持って帰ってもらうキャンペーンも行っています」


コーヒーをマイボトルに入れてもらってテイクアウトするように、その場で醸造されたビールを自分専用のグラウラーに量り売りで入れてもらってテイクアウトできる。自宅でゆっくりと新鮮なビールが味わえる楽しさがある。
「イタリアでは地域の人々が酒販店にボトルを持っていき、ワインを量り売りしてもらうというのは、ごく普通のことだそうです。また、アメリカの西海岸では、クラフトビールの醸造所でグラウラーによる量り売りを先行していて、日本でも同じことができたら、より楽しくお酒が飲めるようになるのではないかと思ったのです」
かつて日本でも、酒屋による酒の量り売りは行われていた。そうした文化はいつしか廃れてしまったが、柴田屋グループは、新たなSAKEの量り売りの文化を創出しようとしている。
地域の酒屋さんから、世界の“SAKE-YA”へと、酒に関わる企業をM&Aしながら同社は更なる進化を遂げていく。
Company Profile
- 会社名:株式会社柴田屋ホールディングス
- 所在地:東京都中野区中央5-3-11
- 設立:2018年(柴田屋酒店創業1935年)
- 資本金:1000万円
- 従業員数:約350名(グループ全体、パート・アルバイト含む)
- https://www.shibatayaholdings.co.jp
※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊ビジネスサミット(現:『月刊次世代経営者』)』2024年12月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。