後継者不在の取引先をM&A
板ガラス加工の技術を承継し共に未来をつくる
主に建築、自動車、産業という3つの分野に分かれている板ガラス業界のなかで、すべての分野のガラスを扱うイケダガラス。同社は、総合ガラス加工メーカーとして製販一体の強みを活かし、製造と供給に取り組んでいる。2025年、後継者不在という課題を抱えていた取引先、クリーンガラス、続いてサンエス化学工業をM&Aした。イケダガラスの四代目、池田友和社長にM&Aの経緯を聞いた。
Profile
イケダガラス株式会社
代表取締役 池田 友和(いけだ ともかず)氏
1980年東京都生まれ。2003年立教大学経済学部卒業。新卒でアイエスジーに入社後、米国ノースウェスタンインダストリーズに出向。帰国後、04年に池田硝子工業所に入社。23年、イケダガラス、池田硝子工業所両社の代表取締役社長に就任。国内外での経験と経営知見を活かし、ガラス業界の発展に取り組む。22年BBT大学大学院にてMBAを取得。
やる前から「やらない」判断をしない
イケダガラスは、池田友和社長の祖父が丁稚奉公による下積みを経て、1943年に自ら会社を立ち上げたことで誕生した。
今から80年以上前の創業というと、かなり歴史のある会社と言える。だが、板ガラス業界は江戸時代から続く老舗企業もあるほど歴史が古い。そのため、独立した時には市場はすでにレッドオーシャン。なかでも市場が大きい建築ガラスの分野では、新規参入は難しかった。そこで、市場としては一番小さいが、産業ガラスの分野に着目しスタートした。
四代目となる現社長、池田友和氏がグループの製造部門である池田硝子工業所に入社したのは2004年のことだ。創業者の孫の中で唯一の男子だったこともあり、親戚や周囲からの期待を感じ「求められているのであれば、それをやる前から『やらない』と決断するのではなく、まずはやってみよう」と考え、入社を決意。基礎となるガラス加工のノウハウを習得した。その後、米国のガラス工場にて作業員として働き、現場の理解を深めた。帰国後は、池田硝子工業所にて品質保証や生産管理を経験し、さらにイケダガラスでは営業や新規開拓にも携わるなど、製造現場から管理、顧客開拓に至るまで幅広く業務に従事してきた。
経営に関するさまざまなことを学んだ池田氏が社長を引き継いだのは、23年のこと。創業80周年という節目のタイミングだった。池田氏は、それまでの父親の方針を受け継ぎ、会社を永続させるためにどうすべきかを考えながら、経営の舵取りを行っていった。
「父は伯父が急な病で亡くなったことで突然社長になりました。そうした経緯もあり、承継者として会社を次に繋げていかなければという気持ちが大きかったように思います。この『次に繋げていきたい』という想いは私も同様で、父と同じ方向を向いて会社の舵取りをしていると感じています」
後継者不在の取引先をM&A
同社がM&Aを行ったのは25年のこと。群馬県にある取引先、クリーンガラスと、同じく群馬県にあるサンエス化学工業(本社:大阪市)の工場を同時期にM&Aした。
「取引先から直接相談を受けたのが始まりです」
池田氏は立て続けに2社をM&Aすることになった経緯をこう語る。
「24年の夏頃、もともと深い取引関係があった、クリーンガラスの社長から『後継者がいなくて困っている。経営を引き継いでもらえないか』という打診があったのです」
クリーンガラスは、産業用のなかでも冷凍・冷蔵ショーケース用の複層ガラスの加工を専門とする、社員10名ほどの技術力に優れた会社だった。それまで、イケダガラスはクリーンガラスの製品を仕入れ、自社の顧客へと販売してきた。クリーンガラスとのM&Aは、産業用ショーケースガラス市場における市場シェアの拡大、製品ラインナップの拡充などの事業拡大が期待できた。


さらにそのすぐ後に、やはりイケダガラスの取引先であったサンエス化学工業から、「群馬工場の経営を担える人材がいない」と池田氏のもとに相談があったという。サンエス化学工業は、クリーンガラス同様産業用の複層ガラスを加工しており、なかでもヒーター付き複層ガラスなどの製造卸売を行っている会社だった。
サンエス化学工業の場合、大阪に本社があったこともあり、事業譲渡というかたちで話が進んだ。クリーンガラスの社長とも話し合い、クリーンガラスはイケダガラスの80%子会社となり、サンエス化学工業に関しては、クリーンガラスに吸収合併させるかたちをとった。
3つの分野すべてに精通
ひとえに板ガラスといっても、割れにくい加工を施した強化ガラスや、熱を通りにくくした断熱性の高い複層ガラス、ガラスの片面に模様や色をつけ、装飾や電子レンジの扉などに使われている印刷ガラスなど、用途によって、さまざまな特徴を持つものが使い分けられている。
「板ガラス業界は、建築、自動車、産業と大きく3つの市場に分かれています。全体の約5割を建築用途が占めており、次に自動車が約4割。残りの約1割が、ショーケースや電子レンジの扉などに使われる産業用ガラスです。さらにそれぞれ対応している会社数を見てみると、建築用板ガラスを専門に扱う会社が9割以上と圧倒的に多くなっています」
イケダガラスは、結果的に、ニッチ市場であった産業用ガラスから入ったが、その後、会社が大きくなるにつれて自動車用にもシェアを広げ、もともとやっていきたかった建築用へと取引先の幅を広げていったという経緯がある。
「板ガラス加工会社のほとんどは、建築、自動車、産業と3つある市場のどれか1つに特化しています。当社のように3つの分野すべてを取り扱う会社はあまりなく、全分野のガラスに精通していることは、他社と比べ、当社の強みです」
取り扱うガラスの種類が増えたことで、建築や自動車特化型の企業と比べ、さまざまな種類のガラスに関する知識やノウハウを蓄積してきたという。
さらに、同社の特徴として、販売(イケダガラス)と製造(池田硝子工業所)とで会社が分かれていることが挙げられる。販売と製造それぞれが専門的に仕事を進めることで、営業部門はお客様の課題を聞き取る力を強め、工場部門はそれをカタチにする力をつけてきた。両者が協力することで、より精度の高い仕事を行うことができている。
産業用複層ガラスの加工で独自性の強い技術を持つクリーンガラスと、サンエス化学工業の群馬工場が一緒になり、グループ内で垂直統合を図ることで、生産体制の効率化のみならず、取引先への提案力を飛躍的に向上させる。今後はこの強固な連携体制のもと、多様化する顧客ニーズに柔軟かつ迅速に応えていく方針だ。
M&Aのメリットは人材の多様性
M&Aをするメリットについて、池田氏は、事業に関するシナジーだけでなく、M&Aを行ったことで多様な人材が増えたことに言及する。
「〝板ガラス〟を軸としながらも、少しずつタイプの違うガラスの製造を行っている人たちがグループの一員になったことで、グループ内で多様性が生まれています。自分とは違うものをつくり、価値観も違う——。そうした人たちと話をし、互いの知識を交換し合うことで、それまで持っていなかった技術について知ることができています。イケダガラスの社員だけでなくグループになった社員が皆、それぞれの視野を大きく広げることができたことは、最大のメリットだと考えています」

さまざまな人と出会い、影響し合えることが、M&Aにおける大きなメリットだと感じているのだ。
だが同時に、M&Aを難しくしているのもまた、「人」だと池田氏は語る。
どんなにスムーズなM&Aだったとしても、長年勤務してきた会社や仕事に誇りを持つ人であればあるほど、割り切れない気持ちを抱える人もいる。制度も企業文化も違うなかで、無理にイケダガラスのやり方に変えてしまえば、社員のなかにはモヤモヤした感情が残り、高い技術を持つ人が退職してしまうことにもなりかねない。そうならないために、それぞれの会社が持つ文化など、尊重すべきところは尊重することが大事だと考えている。
「そのうえで、気持ちとして『イケダガラスグループの一員』という考えを徐々に持ってもらえるような取り組みを積み重ねていきたいと思っています。今は、決算時など、要所要所で私が直接会社に出向き、社員に声をかけ、顔を合わせて話をするようにしています」
一緒になってよかったと思ってもらえる取り組み

「M&Aでグループ化した会社の社員に『イケダガラスと一緒になってよかった』と思ってもらえることを目指しています」
そのためにも、イケダガラスとグループになったからこそ生まれる将来への期待感を持ってもらえるような施策も考えている。
「具体的な例として、まずは工場の環境設備を整えていきたいと考えています。段階的により働きやすい環境になるようにしていく予定です」
工場内の空調設備など、暑さで過酷な現場になりがちなガラス工場での仕事が、なるべく快適にできるよう、少しずつ設備を刷新していく予定だ。さらに、M&A先の会社では、それまでは余裕がなくて積極的に行われていなかった採用にも力を入れる。若手社員を増やすことで、仕事が忙しくなりがちな環境を変え、社内の雰囲気を活気あるものにしていくという。
また、社員同士のコミュニケーションの活性化を狙った施策を検討。まだM&Aを正式に締結する前ではあったが、すでにグループ化することが社員にも知らされていた24年12月には、サンエス化学工業の忘年会にイケダガラスの社員も数名参加した。
「社長が行けば萎縮してしまう人もいるかもしれないと、私は参加しなかったのですが、忘年会はとても盛り上がり、互いのことをよく知ることができたようです。こうした小さな取り組みを積み重ねていくことで、少しずつ一体感を醸成し、『これからどうなってしまうんだろう』というM&A先の社員の不安を払拭し、将来へのポジティブな期待を持ってもらえるようにしていきたいと思っています」
一緒に成長していくことを強調
クリーンガラスのM&Aでは最初に池田氏が会社に出向き、イケダガラスの説明や会社の方針、考え方について話をした。その際、池田氏が心がけたのが「社員と目線を合わせる」ということだ。
「そんなつもりはなくても、M&Aをする側の社長ということで、『上から目線で話をしている』と受け取られがちになると思いました。極力そうならないように話し方には特に気をつけました。たとえば、具体的には主語を『私』ではなく『私たち』とするように意識しました」
また、M&Aをする側もされる側も「一緒に新しいかたちをつくっていこう」と呼びかけた。
25年1月にクリーンガラスをM&Aしてから、M&Aを理由に退職をした社員はいない。
「私が直接話をする機会を持てたことで、引き続き取り組むことへの安心感につながったのではないかと感じています」
25年に2つの会社をM&Aし、それまで同社にはなかった技術を内製化することで売り上げは拡大。今期のグループ全体での売り上げは、5億円ほど増え、共に新たな未来をつくっていく仲間として共栄の道を歩み始めている。
Company Profile
- 会社名:イケダガラス株式会社 株式会社池田硝子工業所
- 所在地:東京都千代田区神田北乗物町1
- 設立:1952年(創業1943年)
- 資本金:1億円
- 従業員数:377名(連結、2025年6月現在)
- https://www.ikedaglass.co.jp/
※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2026年1月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。