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M&A戦略インタビュー

職人の地位向上を目指したM&A
配管工事を軸に規模拡大を目指す

宮城県の配管工事会社・さくら。高橋和義社長は、2023年、経営が立ち行かなくなった取引先の仕事と従業員を引き受ける形で三和鋼産を設立。また同年、後継者不在の同業、ユニーをM&A。24年には、教育事業を開始し、学習塾、ハイパーラーニングをM&Aした。もともと会社を発展させるために大手の資本下に入る未来を模索していたという高橋氏。同社が逆に買収することとなったのはなぜか。経緯を聞いた。

Profile

さくら株式会社
代表取締役 高橋 和義(たかはし かずよし)氏

高橋 和義氏

1985年生まれ、神奈川県茅ヶ崎市出身。高校卒業後、コンクリート解体の企業に就職。その後配管工に転職し、2010年に25歳で個人事業主として独立。12年4月、宮城県宮城郡でさくらを設立。その後23年に三和鋼産を設立、同年ユニーを買収。24年には小中高対象の進学塾、ハイパーラーニングを買収。現在は建設業に加え、教育事業にも力を入れている。

事業発展のため大手企業への売却を検討

宮城県を本拠地とするさくらは、食品工場や化学プラントなど、規模の大きい配管工事を得意とする技術者集団だ。創業者の高橋和義社長は、2010年にそれまで働いていた配管工事会社から独立。個人事業主として事業を開始した。
「東日本大震災が起きたのは独立の翌年でした。その影響で宮城県内の配管工事が大きく増える見込みとなったのです。そこで、私から前職の社長に声をかけ、一緒に会社を立ち上げることになりました」

当時すでに高橋氏の元にいた3名と前の職場の社長、元同僚の計7名でのスタートだった。こうして12年、さくら株式会社が誕生した。
高橋氏がM&Aに興味を持つようになったのは、20年頃のこと。自社の売却を考えたことがきっかけだったという。
「35歳くらいの時のことです。自分や会社の将来について、やりたいことを書き出してみました。その時、今のように体力も気力も充実して精力的に働けるのは、おそらく60歳くらいまでだろうと考えたのです」
逆算してみると、あと25年ほどしかない。今のまま事業を続けているだけでは、やりたいことをすべてやるには時間が足りないと思った。自社の成長速度を早め急拡大させる手段として、大きな会社の傘下に入る戦略的M&Aを検討したのだ。
「資本の大きな会社と一緒になることができれば、使える金額も増え、やれることの幅が大きく広がるだろうと考えました」

会社を拡大したいという想いの奥には、職人に支払える報酬の額が、腕の良し悪しよりも会社規模の大小によって変わってしまいがちな建設業界の状況を変革したいという想いもあった。
「建設業界には、元請けが下請けに仕事を発注し、さらに別の下請けへと発注する複層構造が存在します。実際に配管工事を行う職人の会社は、このピラミッドのような複層構造の下の方に位置することが多く、上の階層よりも収益は低くなりがちです。大きな資本を得て会社が成長し、社員も増えていけば、それだけ会社の立ち位置も上がります。職人集団である当社が複層構造の上の位置に行くことで業界への影響力を上げ、職人が持つ技術に見合った給与を支払える状況をつくっていきたいと思ったのです」

良い職人を失わないために

高橋氏は、自社とM&Aすることで買い手が得られるメリットについてプランを考え、同業で自社より規模が大きな会社に提案していった。ところが、「そこまで考えているなら、自分でやったほうがいいと思いますよ」と断られることが続き、自社の売却計画はなかなか進まなかった。
自社の成長のために最適な動きは何か。常にアンテナを高く張っていた高橋氏のもとに、5年ほど協力関係を築いていたA社の社長が、経営難に関する相談に来たのは、そんな時だった。

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配管工事を中心に行ってきたさくらはM&Aによって業容を拡大している

さくらが得意とする食品工場やプラントなどの工事では、大口径の配管工事を行うことがある。大口径ダクトなど重量物の搬入や据付は専門性が高く、そうした現場では専門の仕事である〝とび〟職をメインでやっている会社に協力を依頼することがよくあった。相談に来たのは、「職人の質がいい」とさくらの社員からも評判の協力会社だった。
「話を聞いてみると、コロナ禍で仕事が激減した21年、22年には、数千万円の赤字を出しており、社会保険料は滞納。立て直しは難しい状況でした」
倒産ともなれば、仕事は宙に浮き、抱えている職人は路頭に迷う。そこで高橋氏は23年7月、三和鋼産を設立。A社の社員を雇用した。

同じ23年12 月、高橋氏は取引先の銀行から紹介された同業のユニーのM&Aを行った。
ユニーは配管工事業のなかでもさくらと同じようなプラントをメインに行っている会社だった。扱っているものは似ているが、コンベア関係の設計、製作など、当時さくらにはない技術も持っていた。
「ちょうどさくらの業務が拡大しつつあり、工場が手狭となっている時でした。ユニーは売り上げが2億円弱、社員が10名ほどで当社より大きな工場を持っていた。シナジー効果も考え、M&Aをしたいと手を挙げた結果、実現しました」

3社混合チームでコミュニケーション

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さくらグループでは、コミュニケーションツールの一つとして毎月社内報を作成。M&Aをした際にはその目的なども共有した

会社をグループインさせた後は、とくに「コミュニケーションが大切だ」と高橋氏は語る。
「協力関係にあったといっても、直後はまだ社長と社員としての信頼関係がない状態ですから、思い込みや憶測によって物事がうまく進まないこともあります。そうした状況をなるべく減らすためには、とにかくコミュニケーションを取っていく必要があるのです」

M&Aの場合、締結をしても、それが発表されるまで事情を知らない社員も多い。そのため、事前に相手の社員とコミュニケーションを図るのは難しい場合もあるが、コミュニケーションを取れる状態になれば、社員としても新たにどんな人たちと一緒に働くことになるのかは気になることだろう。社長だけでなく、社員同士も早くたくさん交流したほうがいいと高橋氏は言う。

同社の場合は、さくら、三和鋼産、ユニーの社員たちが混合チームを組み、現場に行くように調整したという。
「さくら、三和鋼産、ユニーと、3社で得意とする分野が少しずつ違います。そのため、特にさまざまな職人が必要となる大きな現場では、なるべく3つの会社の社員を組み合わせて派遣するようにしたのです」
同じ現場で一緒に仕事をすれば、必然的にコミュニケーションも多く取ることになるため、互いについて自然と深く知ることができたという。

3社を一つにして規模を拡大

今、多くの業界が人材不足に悩んでいる。とくに腕の立つ職人はどこの会社も欲しがっており、「M&Aなどによって一気に職人をグループインできたのは、大きなメリットだった」と高橋氏は言う。
25年11月、さくらは子会社だった三和鋼産を合併。26年3月にはユニーも合併し、3社を一つにする予定だ。
「3社をまとめることにしたのには、いくつか理由があります。一つは、社会保険や給与など会社が違うことで事務作業が煩雑になっていたので、その手間を省く意図がありました。二つ目は、会社規模を大きくすることです。当社は通常であれば複層構造になっているピラミッドの下層にいることの多い職人集団ですが、規模が大きくなれば一次請けや二次請けになる可能性が高くなります。そうすることで職人の地位向上を図っていきたいと考えています。

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三和鋼産(2025 年11 月、さくらに合併)には、鉄骨工事や鍛冶工事をメインとするとび職など、スキルの高い職人が集っている

また、三つ目として、会社が一緒になることで、それぞれの職人たちが持つ、会社ごとの隔たりをなくし、気持ちの部分でも『さくら』としての一体化を図りたいと考えました」

M&A後に苦労した点として、グループインした後も、三和鋼産、ユニーそれぞれの社員が、高いプライドを持ち過ぎている点があった。プライドを持つことはいいことのように思えるが、グループにもかかわらず、互いに対抗意識を燃やし、対立構造を生み出してしまう面もあったのだ。
「そうした対立構造をなくすために、事あるごとに『私たち全員が〝さくら〟なんだよ』と伝え、意識づけを行ってきました」
3社の合併は、グループ全員が「さくらの一員」であることを、感覚的にも視覚的にも受け入れてもらう施策でもある。

3社の仕事を利益ベースで考えてみると、配管工事が一番高く仕事も多い。そのため、三和鋼産でとび職をやっていた人にも、配管に関する仕事を覚えてもらい、繁忙期や閑散期でやる業務を変えるということも考えているという。〝さくらの一員〟としてどう働いてもらうかは、現在も試行錯誤している最中だ。

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2023 年にM&Aをしたユニーは、さくらではできないコンベアの設計・製作・現場工事のノウハウを持つ

また、3社合併後は、社内の環境整備を進めていく予定だ。
「職人たちの技術の向上や、新たに入ってきた仲間がスムーズに技術を習得できる環境の整備を進める予定です。また、一緒になった会社の社員同士の交流を深めていけるような仕組みをつくるなど、社内でやるべきことがたくさんあります。それらを優先するため、26年から27年にかけては、売り上げは横ばいにとどめ、28年あたりから少しずつ上げていく予定です」

新たな事業を展開

三和鋼産を設立しユニーをM&Aするなど、順調に事業を拡大し続けてきた同社は、24年、新たに教育事業を開始。全くの異業種である学習塾のM&Aを行った。
「最初は会社の福利厚生の一つとして、社員の子どもたちが〝非認知能力〟を高める塾に通えるようにしたらどうかと知り合いから提案を受けたのです」
非認知能力とは、目標に向かって粘り強く努力する力や、失敗から立ち直る力、新しいアイデアを生み出す力など、人生を豊かにする心の力のこと。高橋氏は「非認知能力はこれからの人材に必要な力だ」と考え、福利厚生ではなく、自社の事業として手掛けたいと考えた。そこで、さくらの新事業として子どもたちが非認知能力を高められる教室を手掛けることにした。
とはいえ、それまで教育業界とは無縁だった配管工事会社が突然塾を始めても、実績のない塾に子どもを預けようと考える親は少なかった。高橋氏は、「子どもを集めるならば既存の塾をM&Aした方がいいだろう」と検討することにした。
「塾を買いませんか?」
M&Aの仲介会社の人に冗談混じりに言われたのはそんな時だった。
「ちょうどよいタイミングでした。当社が新事業として非認知能力を高める教室を開きたいと思っているという話をし、24年7月、進学塾であったハイパーラーニングをM&Aしたのです」

ハイパーラーニングは、普通の進学塾だったため、M&A後の1年間はこれまで通りの授業を行い、翌年から非認知能力の教育も取り入れるようなカリキュラムを組むことになった。
また、同社が塾を展開していることをPRするため、地域の子どもたちにさまざまな体験を提供する〝スマイルプロジェクト〟を発足。地域にある商業施設などで配管施工体験や子どものファッションショーなどのイベントを定期的に開催している。
「スマイルプロジェクトは、ハイパーラーニングのアピールのために始めましたが、子どもたちに配管施工体験などをやってもらうことで、〝さくら〟という会社がどのような会社かを知ってもらうなど、グループ全体へのイメージアップにつながっています」

教育事業にまで進出し、着実に成長しているさくらグループ。現在、グループ合計で年商は16億円ほど。29年3月期には、20億円を目標としている。
「M&Aは人材を集めるのにも、やりたい事業を早期に立ち上げるのにも有効な手段だと実感しています。もっとも、現在でもいい会社があれば大手の傘下に入ることも検討予定です。会社を売るためのM&Aも、他社を買うM&Aも、この会社を拡大成長させるための手段だからです。当社にとってよりよいのは何か日々検討しながら、拡大成長に向けて最適な手段をとっていきたいと考えています」

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新事業としてはじめた非認知能力を高めていく授業の様子

Company Profile

  • 会社名:さくら株式会社
  • 所在地:本社 宮城県宮城郡七ヶ浜町遠山1-8-34
    第一工場・事務所 宮城県仙台市宮城野区蒲生1-108-8
    第二工場 宮城県仙台市宮城野区蒲生3-7-12
  • 設立:2012年
  • 資本金:2000万円
  • 従業員数:52名(グループ合計83名、2025年11月現在)
  • https://www.sakura2012.jp/

※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2026年2月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。