M&Aで信用力を高める!
「多様性×多角化」をスピード展開
今から約22年前、中国・内モンゴル自治区から来日、留学、就職ののち、起業したというWBPグループの五十嵐一社長。自身も就職活動で苦労した経験から、「外国籍人材の困りごとをすべて解決できる会社をつくりたい」と考え起業。人材サービスを軸に成長してきた同社は、M&Aを活用した事業の多角化を推進し、外国籍を持つグローバル人材が日本で最大限活躍できる環境づくりに挑み続けている。
Profile
WBPグループ株式会社
代表取締役 五十嵐 一(いがらし はじめ)氏
1984年、中国・内モンゴル自治区の遊牧民の家庭で生まれる。2011年3月、関西国際大学卒業。同年4月、人材サービス会社に入社。16年2月、ワールドビジネスパートナー(現:WBPグループ)を設立し、代表取締役に就任。24年10月、WBP商事代表取締役に就任。25年12月、グローバルキャスト取締役就任。外国籍人材の活躍支援を軸に、多角的な事業を展開している。
日本企業とグローバル人材を結ぶハブとなる
兵庫県尼崎市に本社を構えるWBPグループは、外国籍人材を中心とした就労支援を軸に、採用から生活支援、教育、ビザ申請、定着まで、外国籍の人材の〝困りごと〟を解決する「総合人財ソリューション企業」だ。 2016年に同社を起業した五十嵐一社長は、中国にある内モンゴル自治区の遊牧民として生まれ育ち、日本への留学を経て大手人材会社に就職。5年ほど働いた後に独立し、ワールドビジネスパートナー(現:WBPグループ)を設立した。
「私自身、学生時代のアルバイトや日本企業への就職活動で、外国籍ならではの苦労を経験しました。人材会社に就職し、採用側の考えやシステムを知るにつれ、それがどうしてなのか理解できたのです」
日本の大手企業、とりわけ新卒採用などは一定の枠組みのなかで行われることが多く、優秀な人材であっても、外国籍の人材は目に留まりにくい状況がある。
一方で企業側も、例えば「特定の言語や文化、慣習に詳しいグローバル人材が欲しい」という考えがあったとしても、採用要件としては明確に打ち出せない制約を抱えており、採用側のニーズとグローバル人材の希望が噛み合わないミスマッチが生じているという。五十嵐氏は企業と直接やりとりをして求める人物像を掘り下げ、自社に登録するグローバル人材と結びつけることで、このミスマッチを極力減らす工夫を行った。
同社は、企業とグローバル人材双方のニーズを的確に捉えることで信頼を積み重ね、着実に成長。現在では、社員数93名、手がける人材サービスの派遣実績は約1万2000名となり、グローバル人材領域における、独自のポジションを確立している。
コロナ禍が生んだ多角化への道
順調に成長を続けていた同社に転機が訪れたのは、コロナ禍で、主要取引先の業績が悪化した時だった。事業縮小や倒産する取引先もあり、同社の売り上げは前年比4分の1にまで落ち込んでしまったのだ。
「コロナ禍を経験し、一つの事業に依存する危険性を痛感しました。どうすれば会社を存続させられるのか。本気で考えた末にたどり着いたのが、事業の多角化でした」
まず取り組んだのが、同社の主力である人材事業のなかでも、比較的コロナ禍の影響が小さかった製造業や食品分野への営業強化だった。同時に、ITや不動産といった新規事業の立ち上げにも着手した。
「予測不能なパンデミックに加え、災害や技術革新の加速など、先行きが不透明な環境変化が続くなか、製造業等で活躍できるグローバル人材を増やしたいと考えました」
そこで、技能実習生の受け入れサポートを行っている組合の事業承継を検討。22年、知り合いから紹介された協同組合を事業承継することとなり、その後、海外技能実習生の受け入れ事業を開始した。

そんなとき、五十嵐氏の来日のきっかけとなり、日本で父とも慕っていた経営者が急逝。23年、彼が運営していた警備会社ワイエムエス(現、WBPセキュリティ)は、事業存続の危機に瀕した。五十嵐氏は、彼の想いを引き継ぎたいと、事業承継を即断。
「来日以降、大変お世話になったもう一人の父のような人が培ってきた事業を廃業させたくないという一心でした」
五十嵐氏は、承継時には社員0名、アルバイト17名だった会社を、3年弱で社員6名、アルバイト85名にまで拡大させた。
「ただ、私たちは警備業のノウハウに乏しく、今後事業をさらに発展させるためには、業界のノウハウを持った企業へ譲渡したほうがいいと考えました」
五十嵐氏は経営者ネットワークを活用。大阪エリアへの進出を目指す経営者と出会い同社を譲渡。M&Aを譲受するだけでなく譲渡にも活用し、全体最適を進めた。さらに25年、製造・工業分野に強みを持つ地域密着型の人材派遣会社、グローバルキャスト(資本金1500万円)のM&Aを行った。
「製造業の中でも工業系の取引先を開拓していきたいと考えていたタイミングで、ちょうど出会ったのがグローバルキャストです。同社は自動車・重工業・製造業を中心とした大手企業との取引実績があり、まさに当社が求めている理想の会社だったのです」
大企業との取り引きがある会社をM&Aできれば社会的な信頼度は一気に上がる。そう考えてのM&Aだった。もちろん、M&Aをするということは取引先企業にとっては、役員や株主が変わるということ。新たにWBPグループの財務状況や反社会的勢力との関係の有無についてなど、厳格なリーガルチェックが実施された。
「役員一人ひとりに至るまで詳細な確認が行われました。当社としても言動に細心の注意を払いながら、グローバルキャストの取引先に対して、このM&Aの意義について丁寧に説明を重ねました」
こうしてグローバルキャストのグループ参画により、大手製造業との取引基盤を一気に獲得。同社は「外国籍人材中心」の企業から、「日本人・外国人双方を活かす総合人財サービス」企業へと大きく躍進することとなった。
M&A後の成否を分ける従業員とのコミュニケーション

M&Aでは、成立後の社員のフォローが成否を分ける。
「当社では、M&A後すぐに従業員全員と面談をしました」
全体での方針の共有に加え、1対1で経緯や意義を説明。WBPグループに加わることで得られるメリットを丁寧に伝え、理解と納得を得ていった。
「とはいえ、後から聞いてみるとM&A当時、既存の従業員には『今までやってきたことが大きく変わるのではないか』『これまでやってこなかったことも、やらなければならなくなるのではないか』といった不安があったようです」
実際、経費精算など制度面での変更は避けられない。だが同社では一度に変えるのではなく、段階的に移行できるように工夫。
互いのよさを尊重しながら、無理のない形で統合を進めていった。こうした姿勢が組織の安定と定着につながっている。
また、グローバルキャストのM&Aでは、若手社員を社長に抜擢したことで、想定していなかった利点もあった。
「抜擢したのは、28歳の若手でした」
グローバルキャストの社員たちは、その多くが20代から30代。年齢が近いことが功を奏し「新たな社長は、親しみやすく話しかけやすい」と、すぐに打ち解けることができたという。
「代表にするには年齢的に若いと懸念する声もありましたが、実は協同組合の事業承継の際も彼が代表として立ってくれていた実績があります」
協同組合の事業承継から2年ほどが経過し、ある程度軌道に乗ったことから再度その人材に白羽の矢を立てたのだ。
「狙ったわけではありませんでしたが、グローバルキャストの既存社員からしてみると、自分たちと同世代の社長は何かと話しやすいようです。社長と従業員ではありますが、同じ会社にいる“仲間”としての一体感があり、コミュニケーションも良好でM&A後の社員の反発などはありませんでした。もし、WBPグループから大ベテランの年配社員を派遣していた場合、こうはいかなかったのではないかと思っています」
M&Aは、“時間を買う”経営戦略
「M&Aには新規事業に必要な時間や資金、人材育成の手間をかけずに、事業を一気に立ち上げられるというメリットがあります」
五十嵐氏はM&Aのメリットをこう語る。
自社でゼロから事業を立ち上げる場合、ノウハウの蓄積や試行錯誤に時間を要し、成功の見通しも立てにくい。その点、M&Aであれば既存の基盤を活用し短期間で事業化が可能だ。
「M&A後に事業をブラッシュアップすることで、M&Aをした会社の価値をさらに高めることもできます」
また、グローバルキャストをM&Aした際には、先に述べたように、これまでなかなか食い込めなかった製造業などの大手企業との取り引きができるようになった。これは大きなメリットだった。

グローバルキャストの取引先には製造業の大手企業も多く、誰もが知っている大企業が取引先に加わったことで会社の信用力が格段にアップした。そして取引先を見ただけで信用してくれる企業も出てきたことで、営業力もアップすることとなったのだ。
M&Aは年に1社 着実に事業を拡大

現在、多くの企業が特に欲している人材は、20代から30代の若手人材だ。だが、若手の日本人人材は売り手市場となっている。グローバルキャストでも、これまで、こうした若手人材がなかなか集まらずに苦労していたという。
「実はWBPグループに登録しているグローバル人材は、20代から30代がほとんどです。グローバルキャストと一緒になったことで、需要はあるがなかなか集められなかった層の人材に、WBPグループに登録してくれていた外国籍の人材を活用する道も生まれてきました」
「若手人材が欲しい」という企業ニーズを満たすことができるようになったのだ。
「逆に、WBPグループでは、若手人材の新たな活躍の場が広がりました」
グローバルキャストとのM&Aは、WBPグループをさらに飛躍させるきっかけとなった。同社は今後も外国籍人材が日本で活躍できるための環境を整えるべく、エリア拡大と売上成長の両立を図りながら、シナジーの見込める企業とのM&Aを推進していく方針だ。
「できれば、年に1社のペースでM&Aを行い、着実に事業を拡大させていきたいと考えています」
同社はこれまで、自社に不足していた機能や領域をM&Aによって補完し、事業の多角化を実現してきた。人材業界を取り巻く環境は、これまで以上に急速に変化している。先行きの見通しが難しい時代だからこそ、「グローバル人材支援」という軸をぶらさず、その周辺領域に関してもグループ内で完結できる体制の構築を目指していく。
「M&Aは、間違いなく会社の成長のために欠かせないツールの一つだと言えると思います。今後もM&Aを活用して、日本とグローバル人材をつなぐ架け橋であり続けたいと思っています」
Company Profile
- 会社名:WBPグループ株式会社
- 所在地:兵庫県尼崎市東難波町5丁目30-17 アスパイア七番館8階
- 設立:2016年
- 資本金:2000万円
- 従業員数:93名 (グループ合計約130名)
- https://wbp-gr.com/
※本記事は、当社発行の月刊誌『月刊次世代経営者』2026年6月号の記事をもとに、Web用に一部加筆・修正しています。記事の内容は執筆当時の情報に基づきます。